東京大学の秋入学の話題が喧しくニュースを賑わせている。私はこのニュースに違和感を感じる。結論から先に言うと、入学時期を選ぶのは個々の大学の経営戦略の問題であり、政府が口出しするような話ではないからである。秋入学も春入学も、秋卒業も春卒業も全て認めれば良いだけの話なのではないだろうか?
ただ東京大学が提案した事象に対しての政府の対応は早い。「秋入学への移行に向け、政府は、大学当局をはじめ、学生や企業などを全面支援する方針だ。グローバル人材の育成という観点から大変評価できる制度であり、官民あげて議論をしていきたい、としている。」私は、議論が先にあり、それから支援するべきかどうかを決めるべきだと思う。「全面支援」などという言葉が官僚や政府から出てくるのも気持ち悪い。邪魔をしなければいいだけの話で、全面支援するような類の問題ではないと思うからだ。東大が官僚育成大学としての側面を有しているから、このような素早い対応になるのだろうというのが大勢の見方である。
そもそも、個人的見解として「日本の大学での四年間」と「浪人期間」は人生にとっての完全なる時間の無駄以外の何物でもないと考えている。何故なら、浪人は「大学入試」のための準備期間であり、それ以上の意味を持たない。大学はというと、学者畑を歩んだ「優秀」な研究者がクラスを教えるので、狭い領域に特化した研究者を養成する教育に傾倒してしまう。(特に理系においては)潰しが利かない教育のため、教室にいる99%の生徒のその後の人生には全く関係のないことに時間が浪費される。18歳から20代前半の貴重な青春時代に無駄な事に時間を使われるのだから、学生にとってはたまった物ではない。ただし長らくの間、良い大学を卒業することはその後の人生の「黄金切符」を手に入れることと同意義であったため、殆どの人は必死に我慢して、集中力を削がれないよう、大学入試と大学生活を人生の修行期間と位置づけているのであった。しかし、その前提が崩れかけている過渡期の現在において、旧来の大学の存在意義は完全に揺らいでいる。
私自身は、日本で大学を3月に終え、米国で語学学校に通いながら一年半の準備期間を経て米国の大学院に入学した。3月に卒業したことが、米国の大学院進学に不利になったとは思えない。もし準備期間の1年半を省略して米国の大学院に入っていれば、語学は勿論のこと、文化の違いに戸惑ったりして、恐らく大学院のクラスには十分ついていけなかったと思う。大学卒業の時期が近づいたある日、私は担当教官にアメリカに行きたい旨を告げた。担当教官は賛同してくれたものの「本来であれば日本で研究の実績を作ってからアメリカの教育機関に呼ばれるべきだ。そして、履歴書に穴を作ると損をする」と私に忠告してくれた。今から考えると、かなり的外れな忠告だったと思うが、そのような考えを大学の教官たちが共有していたという事である。
ただし、秋入学というような政策の変化が間接的に、人々の心理的なものに影響を与えることはあると思う。学生の進路の一つとして海外の大学院というものが選択肢の一つとして市民権を得ると思う。そういう意味でこの政策は、「MLBに人材を送り込む政策」として卓越したものになる可能性がある。
アメリカの博士課程に在籍する日本人は他のアジア各国に比べると意外と少ない。それが今後多くなるのはいい事だと個人的には思う。しかし日本のプロ野球と同じく、オールスター級の人材が大量にアメリカに流れる可能性はないだろうか?その結果、日本の大学院に残るのは三戦級の人材ばかりになりはしないだろうか(一線級と二線級は欧米の大学院か学部卒で就職)?そうなると、大学の競争力はますます落ちてしまう結果となる。
一方で海外の人材は日本に好んで来るのか?日本に来たいかどうかは入学時期の問題ではない。語学や生活環境など、もっと他の問題があるからだ。私はアメリカ人などで、日本の大学院に留学した経験がある友人が大勢いる。それらの人達の結論を総ずると「日本社会で生活した経験は良かったが、日本の大学院は糞以下」という物が大半だ。研究領域の狭さ、授業の質の低さ、研究室の体質、大学の資源の乏しさ、指導教官の世間知らずさなどに文句を持つようである。
もっと書きたいことがあるが、長すぎるので一旦この辺りで切ることにする。
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