9/08/2015

マイナンバー後の管理社会、日本:水清ければ魚棲まず

国はマイナンバーという制度を導入しようと企んでいるのだが、私はこの制度を非常に危惧している。不正使用などの話しをする人がいるが、そんな運営上の懸念はどうでも良い。私はマイナンバーの行きつく先、つまり「国が個人の経済活動を100%管理する」という未来に危機感を覚えている。導入方法次第では、我々の財布の中身がすべて国に筒抜けになるからだ。

軽減税率について、マイナンバーを使った還付すら考えているという。食べ物を買った際に10%の消費税を含む支払いをするが、後日にたとえば2%分が還付されるのだという。これに対して、「手続きが面倒だ」などという声が上がっているが、それは事のポイントが解っていない人たちの意見である。今回のニュースで判明した事は、国側は最終的に我々の買い物をすべてマイナンバーでデータベース化しようとしている訳だ。クレジットカードなどとマイナンバーを直結させれば良いだけの話なのだから。


これは二重の意味で恐ろしい。一つ目の懸念が大手の優遇である。
大手スーパー、コンビニや百貨店はクレジットカードを使って軽減税率分の割引が効くが、零細小売店舗ではいちいち手続きをとる必要が出てくる。零細小売店のオポチュニティーコストは上がってしまう。或いは、クレジットカードなどを取り扱っていない零細小売店は商売にならないので、クレジットカード端末を導入せざるを得ない。それも零細小売店のコストの値上げに他ならない。大手は結果として国から優遇を受け、「規模の経済」プラス「社会的優遇」という、無敵のシールドを手に入れることが出来る訳である。

日本では、中小零細は税制で今まで「優遇」されてきた。中小零細のオーナーであれば、額面通りに税金を払う必要がなかったし、色々な経費も認められてきた。しかも、日本は現金社会であり、政府にばれないように人を雇用したり、取引をしたりするのが比較的簡単である。ただ、その程度の優遇がなければ、規模の経済を保つ大手企業には太刀打ちできない。しかし、そういった非特定財源への「優遇」を面白くないと思っており、公平を良しとする国側のアクションは、中小零細の繁栄を蝕むことになるだろう。日本の街がアメリカなどと比べて面白い一つの理由が、中小零細の店舗が充実している事にある。こういった日本の良さを殺し、コンビニとスーパーとチェーン店舗だらけの糞面白くない街を作ろうとしているのだ。まあ、既に時遅しという感じもしないでもないが。


次の問題は政府が個人の自由を侵害する事である。我々の収入や歳出に、国が過度に関わってくるという事実そのものが、私は気に入らない。税金を払ったり、色々な公的サービスそのものにも、私は疑問を感じるのだが、今回のマイナンバーは一線を超えていると思う。経済を上手く回すためには、「アホウな人が臨時収入でアホウな買い物をする」事が必要だ。クリスマスのギフトセールや、ボーナスでの買い物など、そういう無駄な消費が経済を回してくれるわけだ。即ち、会社のグレーゾーン経費での飲み会や、個人のへそくりによる支出や、商売人の伝票のちょろまかし、個人間の不明瞭なお金のやり取り。こういった物が経済の礎であるという事を私たちは決して忘れてはならない。杓子定規の役人のやり方は公平かも知れないが、人間の生活を杓子定規に載せると、私たちの生活は詰まらなくなる。


日本という国の地下経済は非常に大きい。ヤクザのしのぎとか、そういった話だけではない。個人経営の食堂や小売店などは脱税の温床である。だが、そういった人達がレクサスに乗ったり、百貨店でブランド物を買うから、経済は上手く回ってきたわけである。それを認めない霞ヶ関社会を認めたくはない。財布を国に常に監視されている国民が、経済活動を委縮させてしまう事が、何よりも怖いのである。それはまわりまわって、ゆっくりと皆さんの財布を直撃し、社会はもっと糞面白くなくなってしまう。私たちは自由意志で動く人間であり、檻の中で既存のペットフードを与えられている愛玩動物ではないのだ。


人々は安保法案や2%程度の消費税増税に怒り狂い、デモをする。こういったトピックは国会の議論の遡上に登る。しかし、マイナンバー制度が国民の議論となったという話を聞いたことがない。霞ヶ関は粛々とマイナンバー制度の導入を進めているし、大手企業が必死に自分たちの都合のよいようにマイナンバー制度を導こうとしている。政府は、効率を重視し、マイナンバーですべてを卒なく管理しようとしている。


国はソビエトのような管理社会を真剣に築こうとしているのではない事くらいは、誰でも解る。しかし、霞ヶ関のエリートが優秀なロボット役人を使って粛々とデータベース管理をすると、清き水に魚は住まぬ、という状態になるだろう。我々の経済活動は委縮してしまう。しかも財務省は、マイナンバー制度の運用を国民の手の届かない所に置いており、国の都合のよいように、どうとでも制度運用を変えられる。そもそも論だが、税制などは税務署員の胸先三寸で、どうとでも出来る(見解の相違)のだ。


マイナンバー制度がきちんと運営される事により、私たちは「自発的に」自由な経済活動を阻害される事になる。国から個人の自由を守るためにも、マイナンバー制度の運用に目を光らせる必要がある。個人の自由の侵害を認めてはならない。自由を侵害されていると憤る活動家は、安保や原発はどうでも良いので、こういった事にもっと力を入れるべきだ。どの政党に投票すればマイナンバー制度に歯止めをかけてくれるのか?私は、そういう政党を全面的に支援する。歴史の教科書を読んで欲しい。社会を清く美しくしようとするような運動が、結果的におかしな社会の流れになってしまう事が多々ある。水は少し濁っているくらいが魚は喜び、生態系は上手く回る。


上述の理由でマイナンバー制度に反対すると、サラリーマンは既に給料は筒抜け。トーゴーサンの下々の不正野郎たちを懲らしめろ、といった意見を言われる事がある。識者も、マイナンバーに反対すると、不正をしているような印象を与えるので、敢えて話題に触れたがらない。私はこのブログで声を大にしてマイナンバー制度に反対する。日本社会の水は少しだけ濁っておいた方がいいじゃないか、と。

PS 余談だが、日本社会の根本的な問題点は、無料のサービスとか、物でお礼をするサービスとかが多すぎるところにあると思う。それが原因で、サービス内容の割に、料金が安すぎると思うのだ。人の労力や時間は無料であれ、という考え方が主流なのだと思う。そういうのにきっちりと対価を払えば、GDPは一気に一割くらい上がると思っている。欧米であればお金がかかるだろうな、と思うことが大概無料だから驚かされる。私もコンサルのような仕事を無料で頼まれたりすることもあり、面食らう。「申し訳ない。ちょっとお願いします。」アメリカなら数百ドルくらいチャージする業務を、饅頭一箱でやらされそうになった事が何回あるだろうか?こんなんだから、ワーキングプアーとか残業とかブラック企業とかいう問題が発生するのだ。マイナンバーなどやってないで、そういうところの意識改革からしていかなくては、経済云々以前の問題だと思うのだ。きっちりとした貨幣経済(サービスに対してきちんとした対価を払う社会)になってないから、GDPで経済の価値が測れないなどといった問題が発生し、反資本主義者たちに政治利用されるのだ。サラリーマンでも主婦でも公務員でも「ちょっとお願いします」の仕事からきっちりと対価を頂くべきだ。近所の子供やおばあちゃんの世話、人生相談、飲み会のセッティング。なんでも対価を頂くべきだ。それを懐の財布に入れて夜の街に繰り出し、「宵越しの金は持たねえ主義でござんす。給料以外の金をお上に計上する気は毛頭ございません」とか言って、パーッと使って欲しいものである。それこそが皆の望む「幸せの国」の形である。私は快楽主義を信じている。管理社会の到来を許してはいけない。