6/13/2012

「しゃぶしゃぶ」は肉の素材を蔑ろにした完全なる欠陥料理

日本人の友人の家に誘われ、関東風のすき焼きが出てきた。私は関西出身だから関東風が嫌とか、そういう問題ではなく、食すことを目的としていない汁で薄切りの牛肉片を煮込むと言う料理に、箸を浸けるのも嫌になった。二週間ほど前にはしゃぶしゃぶを御馳走になった。私はしゃぶしゃぶが大嫌いだ。正直、辟易とした。しかし、すき焼きやしゃぶしゃぶを金科玉条の如く拝める人たちが結構いる。すき焼き論を「関西」VS「関東」といった狭小な好き嫌いの括りで論ずることが多く、かなり苛立っている。薄く切った肉を水で煮るのは大罪だ。「しゃぶしゃぶ」と「煮るすき焼き」がどれほど素材を馬鹿にした料理かを今から説く。

日本人がアメリカ人の食習慣を馬鹿にすることが良くある。ロブスターや海老や蟹などを水でボイルし、殻や頭やミソや汁を捨ててしまうことだ。折角スープが出ているのに、勿体無い、という事になる。この意見に対して、私は100%賛成する。その捨てる殻をくれるなら、私なら濃厚なビスケを作るのに、と考える。

もう一つ。欧米人がケチャップやドレッシングを料理に塗りたくっているのを見たことがないだろうか?或いは、日本に来た欧米人が米飯に醤油をたっぷりと浸けて食べているのを見たことがあるだろうか?あれも馬鹿にされて然りだ。素材の良さを無視して、化学調味料や濃い味で味覚を誤魔化しているのだ。

しかし日本人も完全に同じ間違いを犯している。それは鍋系の食べ物を食す時におこる。「しゃぶしゃぶ」は中でも最悪の部類だ。いくら短時間であろうとも肉の薄切りをお湯に通すことで、肉の旨味が湯の中に逃げてしまう。旨味が逃げた肉片を、濃厚な胡麻ダレや紅葉卸入りのポン酢に浸けて食べる。ドレッシングを食べているのか、何を食べているのか解らない。しかも水に何度も潜らせるため、タレの濃さが食べる毎に薄くなって化学調味料をふんだんに使ったたれの味が徐々に薄くなる。

一方で殆どの野菜は「しゃぶしゃぶ」で食べると言う訳にはいかない。定番の白菜は煮込めば煮込む程美味しくなる野菜であるし、ニンジンや椎茸もある程度煮た方が美味しくなる。豆腐や糸蒟蒻等も長時間湯につけておく必要がある。長時間湯に浸けたからといって、溶け出した肉の旨味や昆布汁を吸うことを野菜に期待できない。ただ柔らかく甘くなるだけだ。何の変哲もない湯で茹でた温野菜をタレにつけて食べるだけだ。胡麻ダレは肉にこそ合うが、野菜を食べるには味が濃すぎる。さらに、胡麻ダレに野菜をつけると、胡麻ダレが薄まり、いよいよ使い物にならなくなる。また、牛肉は湯に通すごとに灰汁が出るし、豚肉は生では怖いのでついつい長時間湯に浸けて肉質が固くなりがちになる。食べ終わるころ、湯には肉汁や野菜の旨みが出ているはずだ。だがしゃぶしゃぶの廃湯は捨てるものであり、飲む事はまずない。このような欠陥料理がレベルの高い和食の高級料理として君臨してきた事自体がお笑いである。海老やロブスターに一家言ある食通の日本人が、グルメのふりをして、万札叩いて「しゃぶしゃぶ」を食べると言うのは滑稽である。脂恐怖症の人達が、しゃぶしゃぶがさっぱりしていて美味しいとのたまう可能性も考えられるだろう。だが脂肪分過多である霜降り肉を使うのであれば、本末転倒もいい所である。

しゃぶしゃぶは欧米人に意外と受けが悪い。しゃぶしゃぶを食べるくらいなら、天麩羅や焼肉が良いという。肉の味が解っているからなのか、ただ脂っこい物が好きなだけかは微妙だが、そういった反応がある事は特筆に値するだろう。閑話休題。

しゃぶしゃぶが美味しくないのと同じ理由で、私は水炊き系の料理も軽蔑してしまう。すき焼きについても、関東風の割り下を使ったものは論外だ。煮るのであれば肉汁が染み出たスープまできちんと食べれるものでなければいけない。その点、関西風のすき焼きは、そこまで悪くない。すき焼き鍋を高温にし、牛脂を溶かす。少し厚めに切った肉を表面だけ焦がし、即砂糖を入れる。砂糖がカラメル化した時点で、醤油か出汁醤油を「じゅっと」させ、すぐに肉を取り出す。火が通り切っていない肉をその時点で卵に絡めて食べても良いし、野菜が出来てからもう一度鍋に戻しても良い。残った甘ったるく脂っぽい醤油に、白菜などの野菜を入れれば、野菜の水が出る。それをひたすら煮るのだ。先ほど取り出した肉から少し肉汁が出ているので、汁だけ鍋に戻す。そこに旨味が詰まっているのだ。白菜や蒟蒻や椎茸や玉葱は長い目に、葱や水菜や春菊は短めに煮る。食べる直前に火を止めてから、牛肉を温めることを目的として鍋に戻す。牛肉は既に調理済みなのでそれ以上火を通すことはご法度だ。そして卵はなるべく使わずに食べる。卵に落とせば、黄身と砂糖醤油の濃厚な味しか解らなくなり、他の味が死んでしまう。こうすれば、「比較的」牛肉の美味さを失わずにすき焼きができる。ただ砂糖と醤油を合わせた濃い味など、要するに高度成長期の幼稚な戦後風味である。あまり高級な肉を使う必要はない。貧乏臭い味であるが、B級グルメとして関西風のすき焼きは秀逸である。

薄切りの肉を手に入れてしまった場合、鍋物にするよりも、炒め物にした方が旨味が料理に回る。火力が弱い場合は一度高温で出来得る限り炒めた肉を取り出してから、野菜を炒めるのが正解である。「しゃぶしゃぶ」、割り下で長時間「煮るすき焼き」や「水炊き料理」などは肉の料理方法がわからない人達が惰性で作る最悪の料理方法だと言わざるを得ない。中華風の火鍋類、例えば「麻辣火鍋」などについても同様の事が言える。折角私達の為に犠牲になった動物達。その肉の旨味を完全に生かせているかどうかを常に考えて欲しい。しゃぶしゃぶやすき焼きは、先入観から高価なイメージがある上、家庭でも簡単に作れてしまう。しかし素材の良さを殺して、ドレッシングや濃い味で味覚を誤魔化すという、二つの大罪を犯した料理であるのだ。

0 件のコメント: