12/14/2011

寒くなって「おでん」とは違う「関東煮き」を食べたくなる

ホリデイシーズン入りしてしまい、年末も重なるとあって、かなり慌しい生活を送っている。しかも、今年はラニーニャの影響で雪が早くから降り始め、スキー場に頻繁に通っており、ブログ更新が怠っている。共和党の大統領候補者選び、ユーロ問題、アメリカ株が何故騰がるか、台湾選挙など、書きたいことが山ほどあるのだが、なかなか筆が進まない。

さて、閑話休題。寒い季節になって暖かいものが食べたくなった。何度もしつこいくらい書くが、味は個人の好き嫌い、異なった生活背景、その時の体の調子などが影響するため、「絶対的な美味しい物」はあり得ないという立場を私は取っている。蛇足だが、マクドナルドやコンビニの商品が安いだけではなく、多くの人々に受け入れられる理由は、リスクが最も少ない最小公約数の味を探しているからである。あれはあれで平均的に「美味しい」わけだ。エクスキュースはこの位にして、個人的な見解を書く。

関西と関東で食べ物はどちらが美味しいのか、と言われた場合、私は概ね関西の方が圧倒的にレベルが高い、と答えている。詳しくは書かないが、それは私が関西人であるというバイアスに由来するからだ。しかし関西と関東の食べ物を比べて、関東のほうが圧倒的に文化や歴史で優れており、懐が深いと考えられる食べ物も数多く存在する。ラーメン、握り寿司、そば、天婦羅。関西でこれらの物を食べるとがっかりする確率が高いが、関東では美味しい店にありつけるチャンスが高い。

今日のテーマは「関東煮き(かんとうだき)」である。最近はコンビニなどで売られている「おでん」がスタンダードになってしまい、薄い味の「おでん」が主流になっている。味の素と塩で煮たおでんのことだ。あれを関西風のおでんだと勘違いしている人が多いが、それは少し違う。関西で食べる「関東炊き」はかなり味の濃いギトギトした物であり、私はそういう「関東炊き」が大好きだ。

子供の頃食べた関東炊きは、「鯨のコロ」と牛スジ肉が必ず入っており、醤油も濃い口を使っており、鍋の底など見えなかった。場合によっては豚バラブロックなどが入っている事もあり、かなり濃厚な汁であった。近所の屋台や市場の店などで売られている関東煮きも(良く買い食いをした)、かなり濃厚な味である。そこに大根、蒟蒻、ゆで卵、揚げ豆腐、蛸、そして天ぷら(西日本では魚の練り物を天ぷらと呼ぶ。例えば牛蒡天など)類が入る訳である。関東煮きというのだから、関東風の濃い味なのだろうと考えていた。濃い味が染みこんだ関東煮きは冬の私の一番の好物であった。

店で売っている「おでん」の汁がうどんの出汁のように薄い事が気になっていた。冷凍食品やコンビニの影響だと思う。そして、最近では大阪界隈でも薄い汁のおでんを出す店が増えている。私は薄い汁のおでんがあまり好きではない。薄い汁のおでんでは和気藹々と寒い冬の食卓を楽しめない。味の薄いおでんを食べると、和風の高級店にスーツのまま行って、付け出しで出てくるがんもどきを食べているような気分になる。私はそういうおでんの食べ方は好きではない。コロや牛筋をガツガツ食べて、ゆで卵の黄身を濃いスープに溶かしてご飯と一緒に頬張りたいのだ。

中華圏でよく食べられている物だが、台湾の屋台では、滷味(ルーウェイ)というものが売られている。屋台に並んでいる材料を指定すると、店の人がその場で漢方臭のする黒いスープ(八角、桂皮、クローブなどが使われている)で茹でてくれる。揚げ豆腐、天ぷら、キノコ類、アスパラや三度豆、はたまたインスタントラーメンから鴨の血など、多岐に渡る食材から好きなものを選ぶわけだ。濃厚なスープに色々入れる。私は好きだ。

滷味(ルーウェイ)は実は魯味(ルーウェイ)であり、魯とは現在の山東省、あるいは古くの魯の国を指す物だという説もある。中国の東北部の寒い地域で体を温めるために食べられていた料理であると言うのだ。とすれば、濃厚な魯味(ルーウェイ)が日本が満州地域に進出した際に日本に輸入され、中国の「関東」地域の食べ物、つまり「関東煮き」として紹介されたと言う事は充分にあり得る訳である。

関東煮きは実は「広東」煮きを間違えたという話もあるが、いずれにしても中国から伝わったのは間違いない。冬の大阪で食べていた私の好きな味の濃い関東煮きは中国ルーツであるようだ。最終的には同じものを指す言葉になったとはいえ「田楽」から名前をとったと言われている「おでん」と「関東煮き」は全く異なる物であった可能性もあるだろう。少なくとも大阪出身の私にとって「関東煮き」と「おでん」は完全に異なる物である。

シアトルの宇和島屋で仕方なしに冷凍のおでんを買った。例の透明スープである。私はスーパーで牛シャンク(牛のすね肉)を買い、大根、卵、蒟蒻と共に味の素満載の出汁を4-5時間煮込む。スープの色は浅いままだが、少なくともマシな出汁が出ている。しかし冷凍物の天ぷら類は犬の餌のような味しかしない。次は豚バラブロックでも入れてみよう。

台湾のコンビニで、おでんもどきが関東煮として売られているのはくやしい。関東煮はどちらかと言えば滷味の事なのに。ファミリーマートやセブンイレブンは、色の薄いおでんを台湾語の「黒輪(オレン)」という元の名前に戻して欲しい。

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