12/01/2012

リフレ政策で日本経済崩壊(5):スタグフレーションで日本中の資産価値は暴落


意外にも金融の基礎が抜けている人が多いので、少しだけ説明する。経済学者でさえも、結構金融の常識を理解していない事があり、びっくりする事がある。経済学を勉強しているのに株や金融に興味がないとか、ちょっとおかしいと思う。まあ、悠長な前置きをする必要はない。国債のバリエーションから説明しよう。


例えば額面価格が1万円の20年国債を買ったとする。現在の利率が1.68%なので、毎年168円貰える事になり、20年目には1万168円を受け取る(細かく言うと一年に二度、84円ずつ受け取る)。割引率に長期金利と同じ1.68%を使うと、現在の評価額は1万円丁度である。ただ、期待利率はデフレを考慮すると年間-0.5%が次の20年間続くと推定した場合、この国債の評価価値は14591円であり、買った瞬間に4591円の鞘取りが出来るわけである。多くの銀行は、今後ともデフレが続くと見ており、計算上、長期国債を買うことが得だと考えている訳である。
 しかし安倍首相の号令の下、人為的にインフレ率が1%引き上がったとしよう。すると、国債の評価価値は8356円となり、購入者は1635円(16.4%)の含み損をする。2%インフレ率が引きあがった場合、フェアヴァリューは7044円となり、3000円ほど(3割近く)の含み損を抱える事になる。
 一般の国債は毎年支払われる利子が変わらないため、利率が上がると計算上の評価額が下がるわけだ。逆に、インフレ連動債のように、インフレに従って支払額が変わるような国債の場合は、割引率が上がろうとも、評価額は変わらない。


長期金利の上昇で被害を受けるのは、国債だけに限定されない。長期金利に基づく長期ローンの数字が、あらゆる資産の評価価値を決めるための割引率として重要な指標となる。
 
仮にあなたが月に5万円で貸せるマンションの一室を持っていたとしよう。年に60万円が入ってくる計算にとなる。税金、維持費、空き室が出る事などは一切無視する。銀行の長期ローンがおよそ3.5%なので、これを割引率として使う。すると、この部屋のフェアヴァリューは、60万円÷0.035=1714万円である。この部屋がこの額よりも高かったり、低かったりすれば、鞘取り機会が生まれるわけだ。安倍さんの鶴の一声で、急に長期国債の利子が2%騰がったとする。すると、銀行のローンも5.5%くらいになる。すると、この部屋のフェアヴァリューは60万円÷0.055=1091万円まで落ちる訳だ。実に、36.4%の目減りである。

 もし家賃も毎年2%づつ上げる事ができれば(良いインフレ)、評価額に変化はおこらない。しかし、長期金利が騰がっても不景気が続き、インフレ分を家賃に転嫁できなかったら(悪いスタグフレーション)、評価額が上記のように下がるわけだ。月に5万円の家賃を、来年は5万1千円に、再来年は5万2千円に上げていかなければ、この物件の所有者は損を被るわけである。
 供給がだぶついている為にデフレが起こっているのであり、お上がテクニカルな利率を変えたところで、家賃に転嫁できるわけがない。家賃を上げれば、借り手がよそに出て行くだけだ。誰でも知っているように、いくらでも空き家はあるのだ。住居用の賃貸ならまだしも、商業用の家賃などは、競争が激しく、上げたくても上げられない。

 それではどうすれば良いのか?良いインフレをおこせば良いのだ。それにはどうしたらいいのか?経済が良くならなければならない。経済を良くして、期待インフレ率を上げなければ仕方ないのである。期待インフレ率とは、経済がよくなりそうなので、未来は値段があがるだろう、という期待を国民が共有する事である。残念ながら私は、日銀や安倍さんが何をしようとも、景気が良くなるというような楽観的なシナリオを抱く事はできない。人為的にインフレにしたらスタグフレーションがおこり、あらゆる資産価値が人為的に下がってしまい、経済が大混乱するのが関の山だ。


最後に、あなたが飲食店を経営しているとする。一年間に500万円の利益を生み出すと仮定する。ただ、競争が激しく、残念ながら未来の成長はあまり見込めないとする。銀行のローンは3.5%なので、店の評価額は500万円÷0.035=1億4300万円である。しかし、人為的なインフレで長期金利が2%騰がったとする。儲けが増えない状態では、店の評価額は9000万円まで減ってしまう。やはり36.4%の目減りである。しかしインフレと円安のせいで、食料原価が高騰する事が考えられる。しかし、同業他社が溢れている状態で、競争は依然激しく、客の財布は固い。原材料の値上げ分を店の儲けには転嫁できないとする。たとえば毎年、じわじわとスタグフレーションの影響で1%ずつ利益が下がるとする。すると7692万円まで店の評価額が下がる。実に46.2%の資産が一瞬で消えてなくなるわけだ。

配当や利子がインフレと同じペースで増えないスタグフレーション下では、国債の評価額は勿論の事、不動産の評価額も、会社の評価額もすべてが大きく下がってしまう。日本国中のあらゆる資産の価値が目減りしてしまう。

 景気は悪いままのスタグフレーションが起こると、日銀がツールを使う事はできない。短期金利を下げて、イールドカーブを急にしても、元の木阿弥だ。

 野田首相はインフレが金持ちに優遇だと言った。まったくの的を完全にはずした意見である。安倍政策のリフレシナリオではスタグフレーションが起こり、資産家が大損するのだ。金や外貨を持っていない人は資産は等しく総て目減りする。
 
しかしこのリフレシナリオを階級闘争という観点からみると、決して間違っていないようにも見える。安倍さんをかついで、国債崩壊に端を発する階級革命を起こせるかもしれないからだ。借金はチャラになり、資産を持っている人が血を流す。持っていない人や固定で借りている人にとっては、徳政令のようだ。ニートやネット右翼が安倍さんを持ち上げるのは、ある意味正しいのだろう。

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