全日空が香港の投資会社と組んで格安航空会社(LCC)、ピーチ・アビエーションを立ち上げている。拠点は関西空港にして、今年の末ごろから札幌や福岡を皮切りに、来年には漢城の仁川空港や香港、グアムなどに格安飛行機を飛ばすということである。
それだけでは飽き足らず、全日空はエアアジアと共同で、成田空港を拠点としたLCC、エアアジア・ジャパンを立ち上げると言う。余談だが成田と大阪を2000円+税金くらいで飛ばすつもりということだが、こだわるようだが、それでもJRはリニアモーターカーを作る気なのだろうか?
さてここで問題なのは、全日空は既存の「オールニッポン」ブランドと「ピーチ」や「エアアジア」ブランドとをどのように差別化できるのか、という事だ。そして自らの派生である「ピーチ」や「エアアジア」によるカニバリゼーションに晒されないのか、といった疑問も残る。デルタ航空の「Song」、ユナイテッドの「テッド」、ブリティッシュエアウェイズの「バズ」など、既存大手航空会社が打ち出したLCCの失敗例は枚挙に暇がない。上記の二つの難題をクリアできた既存航空会社は皆無に等しい。
簡単そうに聞こえるのに、何故差別化できないのか?一つ目の理由が、航空会社ではなく、航空機を利用する顧客に問題があると思われる。つまり「安けりゃサービスを落とす」という売る側からすると当たり前の考え方を、顧客の側は一切受け入れられないのである。私も「Song」などに乗った事があるが、飲み物が出てこないなど、ただ単に「せこい」としか感じられないようなサービスのグレードダウンが見て取れた。コーラを一杯ケチったからと言って、航空会社はいくら得するのだろうか?どうせスチュワーデス(差別用語)はする事がないのだから。
さらなる問題は、既存の大手航空会社のサービス自体が、最近では国内路線を中心にLCC並み、或いはそれ以下になっているということだ。荷物は別料金。飲み物や食べ物も別料金。新聞はない。映画もない。このような傾向が見て取れる中、新規に立ち上げるLCCのサービスは、これよりさらに悪くなるのだろうか?
一部のLCCが成功している秘訣はとても簡単である。発券などを旧来のシステムを使わず、独自のホームページで行う。余分に発券して、オーバーブッキング覚悟で満席近い状態で飛行機を飛ばす。価格を巧くいじって、空席がないように調整する。しがらみがないので「輸送」という概念の外にある無駄なコストを全て削る事が出来る。そしてハブ空港を作らず、小さな飛行機で拠点とする空港から、空いている空港間に決まった形の飛行機を飛ばすことにより固定経費を落とす。つまりハブ空港を作り、世界中或いは日本全国を繋ぐ便利な運輸システムという航空会社に求められる公共性の部位を無視することで利益を得ているのである。
発券やサービスコストなどの面では、既存大手も最近では良い意味でも悪い意味でもLCC並みになってきてはいる。しかしハブ空港を作らないというシステムは、公共性を伴う大手航空会社である全日空にはできない。LCCは公共性を伴う大手の弱点に寄生するニッチプレイヤーなのである。ただ、ピーチが拠点とする関西空港は2000万人のマーケットを持つ。エアアジアが本拠地として使う成田空港は4000万人のマーケットを有する。その人達にとって、航空会社が関空や成田にハブを持つ必要はないので、それらの人間の需要を上手く喚起できれば、新規LCCだけは意外と成功するかもしれない。勿論「全日空」本体のパイを食うことで。
実際のところは良く解らないが、多分全日空の上層部は上記に挙げた事など、良くも悪くもどうでもいいと考えているのではないだろうか?LCCが脅威となりつつあるので、「ここらで私達もひとつ」程度の事しか考えていないのかも知れない。或いは、こすい外資系のコンサルタントか何かに騙されて「ピーチ」や「エアアジア」を立ち上げただけなのかも知れない。ただ、上層部が全日空を守る意味はない。仮に全日空本体がどうなっても、どうせ政府が助けてくれるし、自分とは関係ないと考えるのが当然だ。それなら全日空にパラサイトのようにして新規のLCCを立ち上げ、全日空の傘の下で儲かる体質を作り、株式市場などで売り抜けて儲けよう、などといった浅ましい事を考えていてもおかしくはないはずである。
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7/24/2011
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