5/06/2013

アベノミクスが目指すもの:日本の物価は異様に安い(1)

ホッケー、バスケ、競馬と5月はスポーツ観戦で忙しい。しかし、ニューヨークダウがテクニカル的に天井を打った感があり、株価が夏に調整をする前に「物価」の話を纏めておきたいと思う。

アベノミクスが成功したかどうか?などという無意味な論議が喧しい。金融界の目的は中央銀行に量的緩和をさせる事であり、その結果、安い資金を投資に回して様々な「プライス(ヴァリューではない!!)」が動いている。株やREITや外為に投資している人たちは得をしている事であろうし、円安の恩恵を受けて喜んでいる会社もあることだろう。停滞気味だった国内の投資環境に大きな変化を起こしたという意味で、アベノミクスは成功であると論じる人たちがいる。一方で、人為的なプライス上昇がもたらす未来の「調整」を案じ、アベノミクスは成功したとは言えない、などと論じる人達もいる。給与水準や雇用が劇的に改善されていない一面を捉えて、アベノミクスは失敗した、などと言う人達も目立つ。 

全ての意見の元になっている「現象の描写」に関しては、全く反駁の余地はない。アセットプライスは概ね騰がっているし、円は安くなっているし、外国製品の値段は昇がっているが、給与水準はさほど伸びていない。近い未来に大規模の「調整」があることもほぼ間違いない。人々の意見の違いは、結局、何を成功とし、何を失敗とするのか?という所に帰結する。 金融屋やデイトレーダーにすれば、アセットプライスを揚げてさえしてくれれば成功であるし、輸入業者に取れば円安にしてくれさえすれば成功なのである。一方で、「株をやっていない主婦」や「給与が変わらない公務員」にとってみれば、食品の物価やガソリンの値段が昇がれば、文句の一つも言いたくなるのだ。

 要点から言うと「2%のインフレ」がポイントとなる。しかし「アホ」でも解ると思うが、日本国内のすべての価格が2%昇がったとしても、何の意味もないわけだ。本当に騰がらなければいけないものは、「儲け」である。私はかねてより、当ブログで、日本の物価が驚くほど安くなっている、という話をし続けている。外国人の中には、80年代に聞いた話をいまだに覚えており、「日本の物価は信じられないくらい高い」と信じて止まない人達がいる。しかし日本に一旦住んでみると、東京の物価が思ったほど高くないことに驚くわけだ。

 物価の比較をする時に、ビジネススクールのインターナショナルビジネスのクラスでは「ビッグマック指数」なるものを教える。アイディアとしては、ビッグマックは世界中でほぼ同じものが提供されており、その値段によって各国の購買力の比較が可能であるという事だ。価格でいうと、スイス、ノルウェー、スウェーデン、ブラジル、デンマークなどの順に税抜価格が高い。日本の価格は2012年の調査時点で、12位のアメリカに続いて13位となっている。

 同じ「エコノミスト誌」に、普通の平均的な人が何分働けばビッグマックを一つ食べられるか、という統計も載っている。これによると、東京の人は9分働くだけでビッグマックを食べられることになる。世界で一番短い時間でビッグマックが食べられるのだ。二位が香港で10分、3位がニューヨークの10分。4位がマクドナルドの本社があるシカゴの11分だ。マニラやデリでは一時間強働かなければ、ビッグマックにありつけない。

この統計から判断すると、日本人の給与が世界でも高い部類に入るのか、あるいは食費が安いのか、という事が類推される。ただ、日本では藤田田氏の努力により、舶来の高級なマクドナルドという食べ物が、デフレの代名詞に貶められた経緯があり、「価格」だけに注目すると足元を掬われる。 

ビッグマックの材料費は、助成金、税金、運賃などで上下されようが、世界でそんなに変わるものではない。私たちは「価格―コスト=利益」という式を常に考えなければならない。利益が多ければ、経済は回っているという事である。一方、利益が低ければ、経済に赤信号が灯っているという事だ。コスト要因としては、光熱費、地代、マーケティングなどの運営諸費用そして人件費が多くを占めている。「税抜価格―(光熱費+地代+運営諸費用)=人に残るお金」となるのだが、東京の光熱費と地代は世界的にみても高い部類である。という事は、ビッグマック一つを売った時の「人に残るお金」が日本では異常に低いという事ができる。 アベノミクスでは「人に残るお金を如何にして増やすか」という事が至上命題となるべきである。物価2%というのはただのマーケティングスローガンなので、如何にしてヴァリューアディドを増やしていくかが問われる。 

長くなったので、物価の話は数回に分けたい。今回の記事では、「価格」に注目しすぎると、本質を理解できないという話をしたかった。

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