スキップしてメイン コンテンツに移動

日本のエネルギー政策は簡単ではない

エネルギー政策についての議論が喧しく起こっている。感情論でエネルギー政策を語る人が多くなってきたのだが、一度冷静に日本のエネルギー政策を分析する必要があるだろう。

原発が危険な事は論を待たなくなった。「実は想定していた」最悪の事態が起こってしまったのだから。原子力行政が利権構造で腐っていた事も明らかになった。国と電力会社と学会のトロイカ体制の下、民主主義に反するようなエネルギー政策が行われていた事も白日の下に晒された。それでは原子力発電を今すぐ浜岡のように止めるべきなのか?一部の狂った人間が日本の原子力を推進してきたから日本には原発が54基もあったのか?

昔からやってる反原発派の人達、例えば京都大学原子炉研究所の小出裕章助教などの話を聞いていると、火力をフルに動かせば電気は賄えるであろうし、もし足りなければ国民は節電するべきだ、という意見である。私は小出先生を学者として尊敬しており、原発行政への批判や原発が危険である事に対する指摘には頭が上がらない。しかし代替案の話になると、小出先生からはイデオロギー的なあやふやな話が出てくる。小出先生は生粋の学者であり、行政・政治向きではない。

孫正義氏の意見は完全なる商人の意見だ。技術発展とともに代替エネルギーの可能性が拡がってきているので、規制緩和と投資促進により、エネルギー政策は抜本的に変えられるという訳だ。私は諸手を挙げて賛成しているのだが、詳しくは以前に当ブログで紹介したので割愛する。だが孫氏は、ソフトバンクが太陽発電で作る電気エネルギーを政府が責任を持って買い付けない限り投資しない、と言っている訳である。原発利権を代替エネルギー利権に変えろ、と言っているに過ぎないのではないか、と言った批判もある。(私はそれでいいと思うのだが。)

私が現在住んでいる米国ワシントン州のシアトル市近郊では、シアトル・シティー・ライトと呼ばれる公営企業が、民営企業などが作った電気を送電している。シアトル市近郊の電気のうち、91.2%は水力で賄われており、以下原子力が4.4%、風力が2.4%、そして石炭が1.4%、天然ガスが0.6%、そしてバイオマスが0.1%と続く。非常に面白いポートフォリオだと感じるのではないだろうか?電気料金を払うのは鬱陶しいものだが、シアトルでの電気料金は日本と比べれば無茶苦茶安いし、東海岸に住んでいた時と比べてもかなり安い。

そうならば、日本も水力や風力を増やせないのか?勿論、そうは問屋は卸さない。シアトルは西岸海洋性気候に属し、冬場は雨が降り続ける。険しいカスケードの山々では雪が積もり、その雪解けの水と冬場の雨で、豊富な水量が一年中望めるわけだ。風力に関しても、偏西風が吹き続けるため、一年を通して安定的に風力発電が行われて、効率的である(北ヨーロッパも偏西風の影響を受け、風力発電が盛んである)。しかし夏以外は雨が降り続けるシアトルでは、太陽光などはジョークにしかならない。

そして何よりも強調しておきたい事は、シアトル・タコマ・エベレットといった都市部を合計した人口は300万人に過ぎず、世界の都市圏としての規模は118位にランクしているに過ぎない。

人口が比較的少ないこと。西岸海洋性であり、雨が多く偏西風が吹き続けること。急なカスケード山脈が近くに聳え立つこと。これらの事がシアトルのエネルギーポートフォリオを決定している。結論を言うと、シアトルと日本を比べるのは地理的にも人口動態的にも無理だという事だ。自然エネルギーは、当地の自然状況によって選択肢が異なり、社会的要因によって政策が変わる。

我が国の話をする。我が国の人口分布はヨーロッパや北米とは大きく異なる。東京首都圏の人口は3700万人であり、都市圏人口においては断突の世界一位である。京阪神の人口は1700万人で、ランキングを徐々に下げてはきているものの未だに世界12位である。名古屋圏にしても1000万人を誇り、世界の都市圏人口では27位にランキングされている。日本は人口が都市部に極端に密集しており、規模の経済を使えない自然エネルギーの享受を受けるのが社会的要因で制限されている。

それでは人口が都市に異常に密集しており、資源が無い日本では何が一番効率的な電気エネルギーになりえるのか?結局、そこで原子力という結論に達したのだと思う。原子力ならば、規模の経済を最大限に活用できるし、都市部を避けて福島、新潟や若狭の田舎を犠牲にすれば(東京や大阪の)安全性も問題ないのだ。このような日本特有のエネルギー事情の議論を避けて、原発反対を謳うのは少し理想論に過ぎないと思う。地震があり津波があるのは解っており、原発が機能不全に陥る可能性も高いが、3700万人が住む街の電気が効率的に供給されるのであれば、多少の犠牲もいた仕方ない、という見方も出来る。

そして火力依存を増やすというアイディアだが、天然ガスをロシアから樺太を通じてパイプラインで運ぶとか、例の国産メタンハイドレードを開発するとか、そのような裏技を駆使しない限り、現状では無理だと思う。現在でも買い負けしているのに、今後新興国相手に十分な石油を中東などから確保できるのか?石炭はこれ以上どこから持ってくるのか?コモディティー価格はこれ以上騰がる事は無いのか?世界の供給量が増えずに日本の消費量が増えれば、新興国の発展を遅らせることになるのでは無いのか?輸出が増えれば財政赤字化が顕著となり、国債暴落などが引き起こされるのではないのか?コモディティーが騰がり電気代が高くなれば、産業が外国に逃げるのでは無いか?産業が外国に逃げて日本の国力が落ちれば、石油を外国から買うのがさらに高くつくのではないのか?火力に頼る事も非常にリスクが高いし、70年代の二度のオイルショックで日本は懲りたのではないのか。

そして何よりも歴史を思い出して欲しい。我が国は資源不足の問題で戦争を起こして、最終的に原爆まで落とされる羽目になったのだという事を。

エネルギー政策は真面目にやるべきだ。しかしそれはイデオロギー論争ではない。そしてエネルギー政策は一国だけで終始するものでもない。エネルギー政策は、場所、場所、によって異なった最適化の形があり、ヨーロッパの猿真似は日本では通用しない(何故か民主党やインテリの人達はヨーロッパのモデルを日本に輸入したがる)。私達が快適な生活を続けたければ、エネルギー政策を解決させる魔法の杖は存在しない。多角的な観点から喧々諤々やって欲しいが、一時的な感情論に流されるべきでもない。原発絶対反対を言うのであれば、電気使用量の減少、産業の海外への移転、日本の国力低下、そして東京や関西都市圏の人口抑制などにまで言及しなくてはならない。

現在の日本のエネルギー政策が間違っていたと結論付けてしまうのは、大変浅はかな考え方であると思っている。批判するのは簡単なのだが、前の世代の人達が色々な事を考慮し、必死に努力した結果がこの状態(皮肉にも福島第一やもんじゅ)なのだという事も私達は真摯に受け止める必要がある。別に「奴ら」が糞馬鹿で、私達に天罰を与える為に暴走したのではないのだ。勿論、今までのばら撒き癒着原子力推進政策は破綻しているので、私達は可能な限りの代替案を探す必要がある。世界中の知を集めて、外国の猿真似をするのではなく、日本の特殊な状況を考慮し、真剣に議論する必要があろう。

コメント

このブログの人気の投稿

牛ステーキの部位と食べ方

(広告のクリックお願いします!) 夏になるとステーキを食べたくなる人たちが大勢出てくるのか、友人やその奥さんから牛に関する質問を良く受ける。当ブログの アメリカステーキは何故美味しいのか という偏った記事が一番読者を集めているようである。私自身も牛ステーキが大好きである。アメリカにも美味しい食材がたくさんある。ここパシフィック・ノースウェストでは、生牡蠣、大きな蛤、サーモン、ビンチョウマグロ(アルバコア・ツナ)、銀鱈(ブラックコッドやセーブルと呼ばれる)、ラムのフレンチラックと並び、以下の牛肉類は期待を裏切らない食材である。しかも品質の違いはあれども、どこのスーパーで何時でも手に入ると言う点で、アメリカにおいて牛肉が一番便利なグルメ食材と言っても過言ではないだろう。アメリカ人は幼き頃から牛肉を嗜んでいる為、スーパーのパッケージでどの部位をどのように食べるべきかを知っている。牛のカット法は国によって大きく異なる。アメリカのプライムカットと日本のカットが若干違うため、日本からアメリカに来て間が浅い人は、スーパーなどで牛肉購入時に戸惑うようである。ステーキ用の肉と言う事で、以下に値段順に肉の部位を並べる。 テンダーローイン (Tenderloin) 牛肉の一番柔らかく、脂肪の少ない部位である。フィレミニョンはテンダーローインのショートローイン側(牛の頭側)の一部を指すが、スーパーによってはテンダーローインを全てフィレミニョンと表記している場合もある。理由は、御察しの通り、フランス語で呼べば高級で美味しそうに聞こえるからである。真ん中部分は、シャトーブリアンステーキに使われ、シャトーブリアン(人名を関した調理法の名)とテンダーローイン(牛の部位)をごっちゃにする人も良くみかける。この部位の筋肉は一頭の牛から僅かしか取れない為、自ずと高価になる。  私の意見では、テンダーローインは家庭の「ステーキ料理」としてはかなり難解な材料である。焼いて塩コショウだけをかけると、かなりガッカリしてしまうのだ。高級店に行くと、テンダーローイン系にはソースがかかっている。オ・ポアブルのようにコニャッククリームソースをかけたものや、レッドワインソースをかけたものが出てくる。これらは、バターで脂肪を補っているのだ。が、家庭でこれらの味を模倣することは難しい。...

アメリカで売春や性風俗の話はしてはいけない。大阪には必要である。

アメリカという国は、思っている以上に保守的で宗教的である。アメリカ流のキリスト教的な価値観があり、右も左もその上で戦う。マリファナを推奨したり、同性愛結婚を推奨したり、戦争反対を言ったり、死刑廃止を訴えたり、中絶を支持したりする人達も、キリスト教のアンチテーゼとしての政治的な発言を行っているに過ぎないのだ。「米流キリスト教」の足枷からは抜けられないのだ。アメリカ流のキリスト教的な価値観を理解しない人には、アメリカ社会の政治動向は理解できない。 自由の国と言われるアメリカだが、タブーが数多く存在する。女性問題もその一つである。女性を貶める発言は、完全に「NO、NO」である。政敵を駆逐する際には、その人が女性を軽視していると吹聴すればよい。敵国家を冒涜する際には、その国家が女性の地位を蔑ろにしていると宣伝すればよい。 橋下知事の発言が注目を集めている。慰安婦問題に触れ、米軍に風俗利用を推奨したのだ。これはアメリカでは「NO、NO」である。アメリカでは、売春行為に対する過度な不忍容さがある。アメリカでは、ネバダ州のナイ郡などを除いて、売春は違法である(トリビア:ラスベガス市内では売春は違法!)。政治家や会社経営者が売春行為を行ったことがばれると、ほぼ間違いなく職を追われる。売春などの話に関して綺麗事を述べないことにはアメリカ社会では生き残れない。一般の日本人とはモラルの基準が違うのだ。どのような意見を持っていようと、公の立場のアメリカ人が売春問題について触れることはない。そういうタブーの話題が出てくること自体が不快なのだ。 私は大阪の繁華街で育った人間として、橋下発言はもっともだと思うし、橋下市長の考えている「人間」の快楽主義に沿った社会の在り方が、大阪の繁栄には必要であると考えている。歴史的にも、例えば江戸時代などは日本では「快楽主義」は許容されてきた筈だ。ただ日本人の中にも、こういった話を「攻撃対象」と考えるメディア関係者もいるし、綺麗事を好む視聴者・読者もいるわけだ。私は、橋下市長には大阪の快楽主義に沿った人間臭さを政治信条として、大阪市の発展に寄与して欲しいと考えている。ただ、モラル意識の違う政治基盤との間で、自由奔放な発言を政治摩擦に利用されないように、慎重に発言して欲しいとも思う。 アメリカでは売春行為が違法である。昔の映画に出てくるような、車道やモーテルの前...

アメリカステーキが美味い理由

(注:この記事はミディアムレア以上に焼いたステーキの話であって、生肉の話ではありません。ステーキのレアが好きな人の多くは、単に生肉が好きな場合があります。私も生肉が大好きですが、このページでは牛タタキ風ステーキの話はしていませんので悪しからず。生肉が好きならばわざわざレストランに行かず、 家庭でステーキを食べること をお勧めします。スーパーでニューヨーク・ストリップやリブアイなどと書かれている少し脂の乗った肉を購入して、表面だけを少しだけ焦がして中は生で食べてください。安物のサーロインなどの生焼け肉もポン酢や照り焼き風ソースとも相性がいいですし、ご飯にも合います。この項のステーキの話にそれらの生肉ステーキは含まれていません。ここで扱っているステーキと「ブルーレア」牛たたき風ステーキは根本的に違う食べ物と考えています。牛たたきが美味しいのか、ミディアムに焼いたアメリカのステーキが美味しいのかという話は、軸の違う問題であるため、「りんご」と「みかん」を比べるような不毛な議論です。前置きが長くなりました。) 私は日本の高い和牛ステーキがあまり好きではない。一口目は美味しくて感動するのだが、それは肉ではない。脂の塊を食べており、どちらかと言えばトロなどに近い。日本で年寄りなどに誘われて和牛ステーキを食べさせられることもあるが、肉を食べるという目的の際は、出来ることならご遠慮願いたい。 一方で私はアメリカでステーキを食べることが好きだ。アメリカのステーキは、日本のステーキとはアイディアそのものが異なり、しっかりと赤身を食べさせてくれる。勿論店にもよるのだが(殆どの店は不味い。アウトバ●クやレ●ドロブスターなどのチェーン店でサーロインを注文するとかなりがっかりする事になる。)、かなり美味しいステーキにありつくこともできる。私の友人など、ニューヨークなどに行く度にステーキ屋に脚を運んでいる。最近では、東京などでアメリカンスタイルのステーキを出す店も出てきたようだが、基本的に日本のステーキ屋では美味しい赤身をしっかりと食べさせてはくれなかった。しかしながら、殆どの人は経験上、アメリカ牛のステーキはあまり美味しくないと考えるかもしれない。確かにアメリカでもスーパーで普通に肉を買ってきてミディアムレアに焼くだけではそこまで美味しいステーキは作れない(実はサーロインやニューヨ...