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リフレ政策で日本経済崩壊(2):国債バブル崩壊へ

前回は現状認識を説明した。出来る事など限られており、何をしても茨の道である認識は地震の前から変わっていない。ただ実際にギリシャなどの問題が起こってしまったため、国家破綻がリスクとして投資家に認知され始めたことは事実である。

民主党が下野するのが事実上決定しているため、円が安くなり株価が上がっている。皮肉家達は「円が安くなっているのは、安倍晋三のリフレ政策を警戒しているため」と扱き下ろす。そしてそれに乗り掛かる無節操な投資家が後を絶たない。

前回説明したが、デフレ退治は十年以上にわたって試みられているが、成功した試しは無い。元を辿れば、速水が良いデフレなどとふざけた事を言って対策を打たなかった事が全て悪い。一度デフレになれば、それをインフレに戻す事は容易な事ではないのだ。ただ、今回の安倍次期総裁の政策は、デフレ退治と言う意味で成功しそうだ。それを少し説明する。

デフレ下では国内の投資の回収が困難で、市場にお金が回せにくくなっている。そこに資金供給を無理矢理すると、小泉時代の様に円キャリートレードが起こって円安になった。が、外的要因で円キャリートレードが巻き戻り、円高方面にぶれてしまった。その穴埋めに、市中の銀行は日銀から低金利で資金を借りまくり、国債を買うという無意味は投資を始めたわけだ。国債の需要が高まり、国債の利率は低いままだ。日銀が資金を注入しても、銀行はせっせと国債を買うため、市場にお金は回らずインフレも起きない。

「円高」・「国債の低利率」・「現金保有欲」は現状ではセットである。どれかを切り崩せば、上手くインフレに誘導する事が出来るかもしれない。一番簡単なのは、為替を操作する事だ。円を人為的に低くする事は決して難しい事ではないのである。

で、安倍総裁のリーダーシップで外圧を省みずに円安政策を押し通したとする。株価はまちがいなく上がるだろう。さらに安倍氏が言うように、日銀に圧力をかけて量的緩和を行い、市中の銀行にお金を流すとする。すると銀行は二つの選択肢をとる。一つ目は円安の方向性なので、円キャリートレードを再び始めるという事だ。そしてもう一つは国債ではなくリスクの高い株などを買うという事だ。そうするのが理性的な行動である。そうなると銀行が国債を買わなくなる。すると国債の引き受け手が無くなってしまう。40兆円の歳入に90兆円の歳出。50兆円分の国債を引き受けてもらわなければ国家の首は回らない。

日銀は無担保コール翌日物のレートは変動させる事ができるが、長期国債のレートは市場が決める。引き受け手がなければ、国債の利率を上げて売るしかない。円キャリートレードや株式市場キャピタルゲイン率を考慮した利率にせざるを得ない。長期国債の利率があがると、国債のフェアヴァリューが下がる。すると、銀行や保険会社は無駄に国債を保有しているので、国債を売ろうとする圧力が掛かってくる。国債バブルの崩壊である。

国債の売り圧力がおこり、国債の買い手がつかなければ、利率をどんどん上げるしかない。長期国債の金利はローンの利子に影響するので、住宅ローンなどが高騰する。今までの低利子で固定していたような政府発行のローンが焦げ付き始める。フラット35などは機能しなくなり、税金で救済しなければならない。さらに国債を保有している市中の銀行は大赤字を被る。国債の値段が下がればアセット価格が下がってしまうからだ。最終的にゆうちょが経営危機に陥る。ここで日本経済はジ・エンドとなる。

日本国の信用が揺らぎ、円がさらに売られる。1ドル200円や300円といった事も考えられるかもしれない。こうなれば歳出を大幅に削らざるを得ず、年金などがカットされる。南欧の様にデモが起ころうとも、多くの公務員もカットせざるを得ないだろう。50兆円分の歳出カットは相当な血を流さざるを得ない。助成金は悉く断たれ、多くの保護産業が傾く。ハードランディングした日本は相当の膿を出す事を強いられる。物の値段は高くなり、生活は苦しくなる。失業者も飛躍的に増える。同時に経済は悪化する。これをスタグフレーションと呼ぶ。日本のGDP(PPP)は中流国家並みに落ちる。

安倍が目論むリフレはこういったハードランディングのシナリオを短期で引き起こす可能性がある。国債バブルが弾けて、日本社会は苦渋を舐めなければならない。多くの経済学者は、これを予想しているので警鐘を鳴らしている。中にはこういったリスクを望む連中もいるだろう。逆張りして儲けようとたくらむ連中達だ。どちらかと言えばドルで金を貰っている私も、日本が破綻してくれた方が儲かる可能性が高く、嬉しいというのが本音である。普通に暮らす日本国民は、誰の言葉を聞かなければいけないのかを真剣に考えてほしいと思う。

残念ながら日銀はこの未曾有の危機に対しては何も出来ない。ただ日銀は金を刷り続けるので、ハイパーインフレはまず起こらない。

さてあなたならどうしますか?自己防御するしかないのだが、一番怖いのは資本の移動が制限される可能性すらあるという事だ。国債バブルの破裂は既に仕込まれている危機であり、安倍首相の誕生はハードランディングを引き起こす可能性が高い訳だ。体力のあるうちにハードランディングをしたいと考えている有識者が多い事にも驚かされる。この問題は急に出てきたものではない。問題の本質は政治的に早期解決のしようがないので、マグマの吹き溜まりは時間が経つごとに大きくなっている。確かに早く爆発してくれた方が混乱のインテンシティーが低い。

私はこの記事において、安倍氏の政策が発火の引き金になる可能性があると指摘をしているのだ。残念ながら日本の財政問題はすでに手遅れである。安倍は前回に首相だったときにこういった政策を取るべきだったのだと思う。しかし、時は既に遅すぎた。最終章では、嘘と本当を検証する。



PS 安倍氏のブレーンは時計泥棒の高橋洋一氏であろうが、浜田宏一氏も安倍を応援しているようだ。浜田氏はインフレの方がデフレよりも良いという極当たり前の事を言っているだけで、どうすればデフレからインフレになるかには触れていない。私は浜田氏の授業を受けた事があるのだが、酷い授業だった。日本の記者クラブがいかに官僚の意に適うように出来ているかという事を、ワシントンポストからゲストを招いて紹介していた。ある週は、堺屋太一をゲストスピーカーとして日本からわざわざ呼んできて、無茶苦茶な講義をさせた。日本人の私にとっては、面白いと言えば面白かったのだが、他の同級生は授業のレベルの低さに驚き、時間の無駄だと嘆いていた。

その授業のせいで私は堺屋太一氏を完全に小馬鹿にしている。堺屋太一こと池口小太郎は、ただの文系物書きであり、経済通ではない。維新の経済政策を堺屋太一がブレーンとして引き受けているらしいが、それは間違った人選だと思う。維新は原・上山・竹中という比較的物分りの良いまともな人材から、古賀さんのように微妙な人から、堺屋・高橋・飯田といったイデオロギー系の思い込みの激しい人までをブレーンとして使っており、全体的に考えるとかなりバランスが悪い。

余談は長くなったが、浜田氏は勉強が出来るタイプであるのは間違いないが、授業を通して、経済が実際にどういう風に動いているのかなどに疎いとしか思えなかった。インタビュー記事などを読んでも、ずれた話しかしていない。どころか、肩書きに物を言わせて、偉そうな事ばかり言っている嫌味な人間としか思えないのだ。授業中も、ずっとにやついている癖に、人を小馬鹿にしたような上から目線が目立ち、アメリカで受ける授業としては異色尽くめだった。あらゆる意味で物凄く日本っぽい授業だったし、調子に乗って浜田教授の授業に参加した事を後悔した。

日銀のせいでデフレになったと言う事実を否定する人はいない。日銀が間違った政策をとった事も否定しない。デフレよりもインフレが良いというのは諸手を挙げて賛成する。教授の肩書きを使わなくとも、浜田氏の主張は極当たり前のものである。しかし、デフレになってから何をするべきか、という意見には浜田氏はきちっと答えていない。

魑魅魍魎が跋扈する市場において、浜田氏が何を見ているのかは不明である。その癖、学会の外の人間を小馬鹿にするような発言を続ける一方、明らかに基礎知識を欠いている産経の田村秀男氏を褒めるなど、ちょっとぶっ飛んでいる。年寄りの戯言に付き合えるほどの優しい状況ではない。こういう事は書きたくないが、若かったときは、もっとシャープな方だったのかも知れない。浜田教授が歳をめされる前に授業を取りたかったものである。

浜田氏は小便の臭いのするニューヘイブンの街で年金を得て老後を過ごしてお墓に入って逃げ切れば良いのだが、若い日本国民の多くはスタグフレーションで大ダメージを被る可能性があるのだ。浜田氏は日本が破綻した暁には、逆に喜んで強くなった米ドルを持って日本に帰ってきて余生を楽しむのかも知れないが。或いは、どこかに名誉職があるのだろうか?イエールの教授職をあの歳になっても手放さないなど、名誉に相当拘っておられるのかも知れない。

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