日本が実効支配している尖閣諸島を、中国共産党政権が中華人民共和国領であると主張している。中国が尖閣諸島奪還の軍事作戦をしてくるのではないか?などという記事も良く目にする。巷の人達は、「とんでも論争」だと思っているようだが、中華人民共和国が日本相手に軍事紛争を仕掛けてくる可能性はあるのだろうか?
私は十分にあり得ると思う。フォークランド紛争のときも、まさかアルゼンチンが英国に軍事紛争を仕掛けるとは思っていなかった。さらに、英国のサッチャーがあそこまでやり返すとも思っていなかった。しかしフォークランド紛争は戦争まではいかなかったものの、戦死者や甚大な被害を出すまともな国同士の軍事紛争となった。
中国共産党は釣魚台奪島作戦を仕掛ける誘惑に駆られるのだろうか?中国が紛争に走る可能性があるとすれば、軍部が暴走し、中南海が止められず、人民が喜ぶというシナリオしかあり得ない。
1)中国では国内経済が悪くなってきて民衆の不満が燻っている。マクロ的に解決するためには、人民元をドルに対して切り上げて、国内消費を増やす方法が考えられる。しかし、極端に右に歪む富の分布の下では、人民元の切り上げはすなわち、大勢の最下層の人達が仕事にあぶれ、食べるものにも事欠くような事態になってしまう。社会構造的に、やりたいが出来ないのである。政権が人民の不満を解消する手っ取り早い方法は、戦争でも仕掛けてガス抜きする事しかない。
2)次期の国家主席に内定している習近平は、「当たり障りがない人物」という理由でトップに登り詰めようとしている。共産党の内部権力闘争では、勝負を先に仕掛けた者は負け。おとなしい八方美人や、権力に靡く人達が最後まで残れるシステムになっている。裏を返せば、「国家主席」は飾り物であり、権力基盤は乏しいのである。従って中南海には軍部や派閥の暴走を止める程の力はない。一度何かが暴発すると、人民は愛国というスローガンをもってして、前面にサポートする。国際社会のルールに従って穏便に事を済ませることは、中南海にとっては致命傷になる。一度乗りかかれば、ある程度事を進めなければ収集はつかなくなる。
3)日本という国家は極端な事を仕掛けてくる可能性は低く、マニュアルに外れて事態がエスカレートする可能性はゼロである。日本は国際社会に相談して助けを求め、国際機関に頼ろうとする事は確実である。しかしながら、国際機関は中国に対して「非難」以外の選択肢は取れない。ステークホルダーはアメリカと台湾であるが、日本が台湾に軍事支援を求めることはあり得ない。内向きになったアメリカは日米同盟に基づいては参戦して来ない可能性がある。自衛隊VS人民解放軍の戦いになれば、紛争はエスカレートせず、島嶼近縁の海域内だけでの戦いとなる。中国にとれば、台湾やアメリカの出方を観察することもできる。
4)日本は不景気が長引いており、国民は何かに不満の捌け口を探している。人気浮揚効果を狙う政権は島嶼防衛に対して真摯に取り組むはずである。李承晩が竹島を乗っ取った時の様に、尻尾を巻いて逃げる可能性はないだろう。自衛隊を派遣し、離島防衛作戦を展開してくれる。不戦勝はなく、大戦争に発展しないレベルで、日中間の戦闘が展開される、願っても無いシナリオになる。
5)可能性は低いが、尖閣諸島が仮に手に入れば、台湾海峡のシーレーンをコントロールできる。台湾の中華民国政府はおじけづき、平和的台湾吸収のお膳立てが出来る。沖縄に駐留するアメリカ軍に対しても目の上のタンコブとなり、地政学的に有利な位置に立てる。ただ、パックスアメリカーナに挑戦できるほど現在の中国の腰が据わっているとは考えられない。
6)中国に対して世界は経済制裁などを仕掛けてくるだろうが、どうせバブルが崩壊して国内経済は酷い事になっている。むしろ経済の失策を諸外国の責任にし、国民の目を外的に向けさせる事で共産党政府は無傷で経済の失政を逃れる事が出来る。中国無しでは発展国のサプライチェーンは回らず、政治は強固な中国制裁に反対する。
7)尖閣諸島を占領できずに逃げ帰ったとしても、外国が徒党を組んで中国を苛める、と言ったような謀略論を流し、人民の愛国心を駆り立て、経済失策を誤魔化す事ができる。今後、海軍や陸軍は予算を請求しやすくなり、共産党の長老たちの系列会社は儲かる。紛争を行う事が目的であるため、結果には余り興味は無い。中国がサプライチェーンを握っているので、世界はそこまで酷い制裁を加える事はできない。
ここからが実際に中国が行うであろう考え得るシナリオである。ある日突然、事故と装って、軍用輸送飛行機を尖閣に不時着させる。中国人民軍の兵士を100人単位で乗せておき、事故であると言い張る。海上保安庁に対して、銃などを使用して人民軍の兵士に悪態をつかせて、逮捕者や怪我人を出す。それに対して中国政府が日本に抗議し、軍を派遣する。ある程度の時間が与えられるので、自衛隊が尖閣付近に集まってきて、海域で限定的な紛争を繰り広げる。永田町では総理大臣が自衛隊に徹底死守を命令する。アメリカに支援を要請するも、議会の承認に時間がかかると言われる。結果として、表面的には自衛隊だけでの島の防衛となる。ただし中華民国の海軍は基隆港から自衛隊に非公式で支援を行う手配は済んでいるし、アメリカ軍も空母などをすでに沖縄から出向させ、万が一の事態には完全に備えており、事実上の後方支援をしている。東シナ海上での海上戦となり、双方の戦力にかなりの被害が出るし、戦死者も多数出る。航空機の戦いまでには発展しないとみる。長くとも30時間程度の限定的な紛争となる。アメリカの議会や国際社会の対応が始まると察した瞬間、上陸を試みることなく、嘘の様に人民解放軍は福建の港に退散していく。
中国国内のテレビでは、日本に100%否があるなどといったふざけた洗脳が始まる。国際社会は中国を非難するものの、何も出来ないし、日本も悪い、などと言う。平和を乱された日本国民はパニック状態になり、政治はおかしな方向に進む。軍事費などがこの期に及んで嵩上げされる(アメリカは喜ぶ)。市場では日経や円が暴落する。ハンセン、台湾、ソウルの各市場も大暴落。アジアに一気に寒風が吹く。
こういったことが今後1年以内くらいに起こらない事を願っています。
1929年の大恐慌は、結果的に第二次世界大戦を起こさせた。デフレ・失業対策は戦争で誤魔化された。21世紀はじめての世界大不況。ワイルドカード(戦争)を使いたい人達がそろそろ出てきてもおかしくない。