あなたは科学者になって、世界がどのように機能するか、或いは世紀の大発見をしたいと思いませんか?博士になって、皆から尊敬を集めたくはありませんか?私が若い高校生や大学生に言えることは、「やめておきなさい」という事だ。
科学というのは楽しい仕事であるし、新しい発見は胸躍る物である。もし、あなたが頭脳明晰で勤勉であれば、理系や経済系の大学に行くべきである。しかし、そこで終わらせなければいけない。卒業後は普通の社会に進む必要がある。つまり、科学系の大学院に進学してはならない。プロフェッショナル系の大学院、つまりMBAやロースクール、メディカルスクールやコンピューター関係の大学院なら、進学しても問題は無いだろう。
昔は「末は博士か大臣か?」などと言われる事もあるほど、博士という地位は名誉や権威を表すものであった。しかし時代は変わった。日本であれ、アメリカであれ、欧州であれ、アジア諸国であれ、博士など掃いて捨てるほどいるのである。そして、供給が完全に需要を上回っている。大学教職員の席はそれほど増えていないにもかかわらず、博士号取得者は指数関数的(大袈裟です)に増えているのだ。
それは日本の事で、アメリカでは博士号というものに未だに価値があるのではないか?私の周りには、そう信じたい人も大勢いる。残念ながら、アメリカでも博士号取得者はあぶれており、仕事探しに四苦八苦している。今から書くことはアメリカの話しである。日本はアメリカの後追いをしているので、アメリカの話は日本の読者にも十分に参考になるだろう。
アメリカでも、大学の教員の募集人数は博士号取得者数の数と比べて圧倒的に少ないので、仕事を手に入れるプロセスが年々厳しくなっている。二流大学のテニュアーがついていない助教授レベルの仕事ですら、最低20本の論文、大きなグラントの一つや二つは要求されるだろう。つまり、博士号を取得してから最低5-6年はポスドクとして過ごさない事には、大学教職員のインタビューにたどり着く事すらままならないというのが実情だ。
仕事を手に入れる事が難しくなっていくに従い、要求される専門分野や統計手法の知識や技術が高くなってくる。すると、博士号取得までの年数が伸びてしまう。博士号取得までに8-10年ほどかかる人たちも大勢いる。
とすると、大学を卒業した後、修士号で2年、博士号取得まで8年とポスドクを5年したとして15年の年月を要する。その間、貧乏生活を余儀なくされ、不安定な環境に身を置く必要がある。それだけ時間をかけても仕事を手に入れられない人も大勢いる。大学院のリサーチアシスタントだと、バイト無しで休暇なども平均すると毎月1000ドルほどの給料が貰える。恵まれているポスドクなら一年に$40,000程度であろうか?すると、保険代と税引き後の手取りは2000ドル強となる。これで家族を養う事は不可能である。
2014年の時点で退官間近の教授たちに聞いてみて欲しい。ポスドク期間を何年過ごしたか、と。「限りなくゼロに近いブルー」だと思う。それでは、最近採用された若手の大学教職員に同じ質問をして欲しい。とても気分が滅入る答えが返って来る。私は今まで何度か大学職員の採用過程に参加させてもらった事がある。応募者の履歴書の凄い事、凄い事。トップの候補者たちは、その学部にいるほとんどの教職員よりも優れていると思われる。ただ、それらの中から、一人ないしはゼロ人が本職として採用される。しかもテニュアー無しである。
世の中には、研究に向く性格の人もいる。一つの事に打ち込める人で、社会の事などにあまり関心を持たずコミュニケーション能力が不足している類の人達だ。世間ではアスペルガーと呼ばれている人達だ。しかも、家がある程度裕福であれば鬼に金棒だ。科学者と言うのは、そういう人達には向いている仕事だと思う。ただ、このブログを読むような人達はある程度社会の事にも関心があると思う。そういう普通の人達は、どんなに頭が良くとも、科学者を目指したりPhDを取得しようとしたりしてはいけない。或いは、中国やインドなどの発展途上国出身で、$2000の給料が素晴らしいと思える人達にとっても、アメリカで科学者を目指すことは悪くないかも知れない。実際にアメリカのアカデミアは、中国人とインド人だらけである。ただ、普通の野心がある日本人には無理である。
大学の科学者ほど惨めな物は無い。科学の世界は自分のお金がないので、他の人達にお金を乞わなければならない。学術の世界から世の中を変えるイノベーションは殆ど開発されていない。科学者の仕事は、内輪の科学者の為である。
私の感覚でいうと、薬物で身を滅ぼした人よりも、PhDを取得して身を滅ぼした人の方が多いのではないか?という気にすらなるのだ。
悪い事は言わない。象牙の塔には足を踏み込まない事だ。科学者になろうとすれば、無駄にレベルの高い競争に晒され、長期間貧困に耐えなければならない。普通の人なら、途中で何回も折れてしまう。世の中には一杯やりがいのある楽しい仕事がある。あなたが頭脳明晰で、野心が強く、コミュニケーション能力にも長けた人間であれば、尚更のことである。成功したければ、大学に入る前にある程度未来を決めておく必要がある。勉強がある程度出来るからと言う理由だけで惰性で大学院に進んで涙した人達を、私は星の数ほど見て来た。それらの多くの人達は、とても優秀で、さらに人格的にも尊敬できる人達だった。
何度でも書こう。あなたが科学者向きの人間でなければ、PhDを取ってはいけない。あなたは確実に不幸になる。PhDを取得でき、英語もそこそこ出来る人であれば、他の仕事で絶対に活躍できるし、その方が社会の為になるだろう。野心を持って博士号の取得を目指す人で、私がここに書いたことに同意できない人もいるかも知れない。そういう人は、博士号を取って1-2年してから、もう一度この文章を読んでもらいたい。
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