「日本の教育はレベルが低い!アメリカに留学すれば人生が開ける!」そんな勇ましい事が書かれた書籍にすっかりと騙されて、私は日本の大学を卒業した後にアメリカへ留学した。
たまに日本にいる若い学生に「留学して自分を高めたいのですがどう思いますか?」などと質問される。10年ほどが経ち、客観的に自分を見つめられるようになり、色々思う事があるので書いておく。基本的には「留学すれば成功する!」といった単純な論調に「すっかり騙された」と思っている。が同時に、日本にいても手に入らなかったような物を、色々手に入れた実感もある。
留学して得する事①
「外国人話者」としての英語力がつく。留学して手に入れられる最高の利益である。留学をしたい理由の第一位は英語を身に付けたいからだと思う。
留学して得する事②
外国人の友達が一杯できる。特に発展途上国の金持ちの子息と簡単に友達になる事ができ、自分の視界が広がる。これも留学して得られる利益である。
留学して得する事③
他の日本人留学生と深い友人になれる。留学は楽しい反面、様々な苦労にも直面する。それらの過程で、他の留学している日本人と深い絆が出来る事になる。友情は金では買えない。
留学して得する事④
視界が広がる。今まで日本で常識であると思っていた事が常識ではないと気付く。「コロンブスの卵」的な考え方、つまりは常識にとらわれないような考え方が出来るようになるかも知れない。日本の現状を第三者的な視線から冷静に観察する事も可能になる。
留学して得する事⑤
日本語で書いたり話したり読んだりする能力や、コミュニケーション能力が格段に上達する。これは英語という普段は使い慣れていない拙い言語で、無理やり他人に何かを伝えようと頭で考えながら四苦八苦するうちに身に着く能力なのではないか、と考えている。自分の母国語でも理路整然とコミュニケーションできるようになる。面白い事に、他の言語を勉強しても早く身に付くようになる。
留学して得する事⑥
アメリカの大学院を介すると、簡単に学歴ロンダリング出来る。学費を自分で負担できるのであれば、名の通った大学院に簡単に進学することが出来る。ただし、これはMBAやロースクール、或いはプロフェッショナルスクールと呼ばれている大学が中心であり、研究分野はコネが無ければ入るのは難しい。ハーバードやイェールなどが凄いと言われているが、日本の帝国大学に入れるくらいの頭脳があれば、英語能力さえ鍛えれば、簡単に入学できる。しかも周りの人からはエリート扱いしてもらえる。しかし、東大を卒業して、アメリカの州立大学で修士を取ったりしている人を良く見かけるが、これは学歴を落としているようにしか見えないのは私だけだろうか?
留学して得する事⑦
やたらと自身がつく。英語で授業を受けたり、英語で発表したりしているうちに、自分は凄い事をしていると感じるようになる。例えば日本でMARCHくらいの大学に行っている人がアメリカの州立大学の大学院に留学したとする。そうすれば、計算能力や知識的にはクラスでもトップレベルであるのだが、当初はアウェーでの戦いであり、気後れする事になる。しかしテストなどを受けると、特に数学系や暗記系の科目においては良い点数が取れる。これは半端じゃない達成感を得られる事になる。
留学して得する事⑧
行動力や生活力がつく。不便な中で頑張るので、ゴキブリ並みの生命力がつくし、楽しく生活する知恵も生まれる。
達成できるかもしれないが時間を要する事①
アメリカ人の深い友達を作るのには苦労する。外国人留学生の友達は簡単に作る事ができるのに、アメリカでアメリカ人の友達が出来ないのだ。クラスには普通アメリカ人が大勢おり、アメリカ人同士の会話の中に入っていけない事が原因だと考えられる。あわよくば金髪碧眼の美人と付き合いたい、などと考える日本男児にも会うが、そういう事をしたいのであれば、日本に来訪する外国人女性をターゲットにした方が簡単だと思う。
達成できるかもしれないが時間を要する事②
英語はそんなに簡単に上達しない。1年くらいではコミュニケーション能力もままならない。2年くらいで漸く授業についていけるようになる。5年くらいたつと、アメリカ人との会話がかなりスムーズになる。意思疎通には全く問題がなくなるという物の、10年たっても綺麗な文章はまだ書けない。何十年いても日本訛りは消える事がない。英語能力のせいで、周期的に自分がとても惨めに思える日がある。これは辛いものだ。
留学して失敗する事①
アメリカでの仕事探しは高い確率で失敗する。米国で修士を取った程度で英語力が無い人は、まず仕事を見つけられない。英語力があったとしても、これは運とコネだけの問題である。簡単に見つかる事も有るが、簡単に見つけられない事の方が多い。ビザの問題がさらに事をややこしくする。インターンなどから地道に就職活動をするしかなく、日本の様に「集団就職」で簡単に仕事が手に入るとは思わない方が良い。特に、経験もなしで大学院を始めたような人は黄信号が灯っている。
留学して失敗する事②
日本で外資系や大会社に簡単に就職できない。留学している人など掃いて捨てるほどいるのだが、企業が留学生に期待する事はネイティブ並みの語学力である。修士課程を終えたくらいの中途半端な英語力の人は、大抵跳ねられる。ボストンのキャリアフォーラムに参加したり、コネを使ったりして就職したとしても、思っていたほどの給料は貰えない。この時になって、初めて留学のコストパフォーマンスが低かったことに気付かされる。
留学して失敗する事③
無駄に高学歴に固執する。ダラダラと学生を続けて、博士号を取ってしまう。博士号を取得すれば、大学教員を目指すべきなのだが、博士号取得者がポストの数に比べて多すぎる。良い椅子を取るには、優秀な中国人やインド人との戦いに勝たねばならない。教員として成功するためには中途半端ではない英語能力も求められる。そんな競争に残ったとして、給料は驚くほど安い。ポスドクになろうものなら、貧乏奴隷生活以下で、最低賃金の貧困生活を強いられる。課目によっては大学教員以外の道もある。工学部などでは大学に残らずインダストリーに行くと良い給料が貰える。文系科目でも、巧く就職活動をすれば楽な仕事なのに高い給料を貰える事もある。ただ就職活動は日本の様に整備されていないうえ「運」と「コネ」が決め手の世界だ。就職活動に力を入れると、間違いなく研究に支障が出る。苦労こそが生きる意味、などと考える人を除き、生命科学や基礎科学などで博士号を取ってはいけない。あなたは不幸になります。
留学して失敗する事④
井の中の蛙になる。アメリカの某都市の大学院で勉強したとしよう。某都市の常識はアメリカの常識でも、世界の常識でもない。某都市の常識だけをして、世界を語るようになったり、日本のシステムのすべてを否定し始めたりする。こういう行動をとる人が多いので、「留学生」というブランドは日本国内で反射的に嫌われる。まあ、それで本などを書いて食っていける人もいるのだが、そういう人達に騙されて留学する人が増える事には疑問を感じる。
留学して失敗する事⑤
スキルや英語力を追求しすぎて時間がかかり過ぎ、コストパフォーマンスに合わなくなる。完全主義を求めたところで、人間が出来る事は限られている。しかも、人間には等しく一日に24時間、一年に365日しか無い訳だ。すべてを成し遂げる事など出来ない。アメリカの大学院は、修士課程は基本的に二年間だが、博士課程などに進むと、下手をすると10年近くかかる事もある。どれだけの知識や能力が身に付こうとも、若い時の10年という時間を取り戻せるほどの逆転ホームランを放てるかどうかには疑問が生じる。博士号取得のみが目的であれば、日本でサクッと取った方が簡単であるし、英語圏で博士号を取りたいのであれば、英国やオーストラリアなら素早く博士号を与えられる。
留学して失敗する事⑥
虎の威を借りる狐。アメリカで受けた教育が「虎」に過ぎない事が多い。あなたの能力やキャパシティーは所詮キツネかもしれない。残念ながら、キツネは虎にはなれない。
留学して失敗する事⑦
ガラパゴス化。あなたの最終的な目標が日本での就職であれば、留学をしたところで日本からの情報に疎い、使いがっての悪い人間になる。留学という箔漬けが目的なのか、留学して自分を磨きたいのか、あなたのゴールをはっきりさせなければならない。
留学して失敗する事⑧
びっくりしなくなる。昔は驚いたような事が、むしろ当たり前になる。逆に言えば、図太くなる。日本に帰った時に、テレビ番組を見たり、古い同級生と会話したりした時に、驚くほど詰まらないと感じる事がある。
留学して失敗する事⑨
痛いアメリカ人と結婚してしまう。これは日本人女性において顕著である。アメリカ人男性の中には積極的な人がいる。そういった人についつい押し切られて、結婚してしまう日本人女性が周りに多くいる。まあ、日本人女性側もアメリカに行ったという事で、無意味に無節操になっているというパターンが多いのだ。こういうパターンでは8割くらいの確率で、女性側が不幸になる。ただ、残りの二割に、とても幸せなカップルが数多くいる事は強調しておきたい。アメリカで金髪の可愛いおねえちゃんが日本男児に言い寄ってくることは余りないので、男性諸君はそんな心配をする必要はない。日本人男子とアメリカ人女性の結婚は、珍しいというものの、かなりの確率で上手くいくようだ。
このように、留学にはプラス要因もマイナス要因もある。いずれにせよ、スキルの向上や能力を磨くことは時間がかかることである。時間に合った効果をどの程度求めるかで、留学に意味が有るか無いかが変わって来る。人生の目標を先に設定した上で、アメリカへ留学するという手段をとればあなたは成功するだろう。だが「とりあえずアメリカへ留学!」というような態度をとると、思わぬ落とし穴にはまる可能性が高いので十分に注意して頂きたい。本屋で売っている留学本や日本教育批判本は、本を売る為に書かれており、実社会では通用しないような類の物が殆どである(だからフィクションとして読めば面白いのだ)。あなたの人生は自分で決めなければならない。きっちりと戦略を立てて良い留学経験を積んでいただきたい。特に、出口戦略か保険戦略を留学する前にきっちりと考えておくべきだ。留学によってしか得られないような貴重な体験が多い事も事実であるが、留学が生涯賃金の向上には全く結びつかない事が多いのもまた事実である。
1 件のコメント:
そっか。今は大変なのですね。
私は20年以上前に留学、それも語学留学でしたが、日本に帰って勤める会社がなく
外資で雇ってもらえました。
当時はまだ転職する人も少なく、
外資系って何?という時代でしたから・・。
アメリカの大学は、
日本の大学に落っこちたから
行くところでした。
当時の外資系は高卒でも英語が話せれば
普通にいたので、
私は高卒でした。
それでまあ、ただの事務職ですが、
働いてました。
その後、大学は卒業しましたが・・。
しかし、今でも経理などなら
経験のある主婦が
再就職で、高卒で英語が話せなくても外資で働いていたりします。
日本の新卒は集団就職・・というけれど
今年新卒ののシュウカツは楽みたいです。
去年は、最悪だったみたいです。
新卒カードというのが、一番いい会社に入れるので、留年する人も多いみたいですが・・。
留学で生涯賃金なんてことは考えたことがなく
留学しました。
・
今某企業でけっこういいポジションで働いている女友達は、アメリカの専門学校→日本のマスコミでバイト→社員に抜擢・・そんな感じで働いていたりもします。
そうこうして、英語を20年以上使って仕事を私はしていますが、
時代を先取りすることが(結果的にそうなっただけですが)よかったのだなと
思います。
外資系を次々に転職していく・・・
そんな人たちが駆け抜けた時代に生きました。
まだまだ生きますが・・。
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