アメリカの議会が捻じれており、政府の一部がシャットダウンしている事はご存知の事と思う。私の周りにも色々な影響が出ている。研究を続けている政府系研究機関の職員とはメールでのやり取りが出来なくなっている。在東京のアメリカ出先機関に所用で連絡したところ、日本の現地スタッフしかおらず、アメリカ人職員は働いていないと言われた。さらに、政府系のホームページに載っているセンサスや貿易などのデータ、他の文献などにもアクセスできなくなっている。と言っても、個人的な影響は限定的であるので、私としては知ったこっちゃあ無い。しかし、例えば友人の奥さんはDCで某省庁に勤めているのだが、二週間仕事に行かなくて給料が出ないのは我慢できるが、その間の保険代などを自己負担する必要があり、恐らく50万円くらいの出費になるだろう、と嘆いていた。そういうのを聞くと気の毒に思うが、私からは遠い場所での話しである。
しかし、アメリカ国債が仮にデフォルトすると、話が違ってくる。デフォルトの定義は色々あるという事は昔に述べたが、デフォルトは「支払いの不履行」とも訳されており、一度でも支払いを怠れば債権はデフォルトした事になる。債権の格付けは、支払いの履行可能度で決められる為、一度でも不払いが起これば、格付けが下げられる。今回の問題は、内政的な理由があるにせよ、支払い能力が十分にあるにも関わらず、議会が踏み倒すかも知れないという悪質な物であり、決して看過される問題ではない。米国債の「信用」はガタ落ちする。
資産の現在価値を計算するためには、「割引率」を用いて未来の価格を現在価格に換算するのだが、リスクフリー資産とされている米国債を割引率の基準とする。つまり、米国債の価格が下がれば、他の資産価格を暴落させてしまうのだ。それも世界規模で。そういう意味で、アメリカのデフォルトは決してあってはならない。議会もその辺りは理解しているものと信じている。
ティーパーティーに支持された一部の共和党下院議員が、世界の資産価格を人質として、オバマケアを阻止しようとしたり、自分たちの支援者に媚を売ろうとしたりしている行動は、モラル的に最低である。オバマケアは既に議会を通過した法案である。「人質」を使い、既に通過した法案を捻り潰そうとする行為は、民主主義の根本にもとる行為である。
ティーパーティーとは一体何者なのか?結局は、白人負け組連中であり、政府が自分たちの生活を脅かしていると考えている。連邦政府こそが自分たちの敵だと考えているのである。アメリカは広い。金持ちの街もあれば、負け組の白人だけが住む街や、貧乏な黒人のみが住む街もある。南部や中西部の田舎町を中心に、グローバリゼーションの波からとり残されているような地域では、白人の下層の人達の恨みの捌け口として、草の根レベルのティーパーティー運動が起こっているのである。
企業を優遇する共和党は、金持ち層からだけの支持では過半数を取れない事が解っているため、宗教の力や貧困層を取り込むことで、選挙を優位に戦っていた。つまり党内に、「金持ちの為の共和党」と「貧乏白人の為の共和党」という二つの異なるイデオロギーを抱えてきたのだ。その矛盾が現在爆発している。共和党の貧乏白人に支持されて当選した議員たちが、古き良き共和党員に白色テロを実行し、党を、そして議会を、そしてアメリカを、さらには世界経済まで乗っ取ったのである。
グローバリゼーションの波に飲まれ、冷や水を飲まされ続けていた貧乏な白人の草の根運動が功を制したのだ。憎いのは社会主義社で黒人大統領であるオバマ。憎いのは外国人や非白人。憎いのは連邦政府。憎いのは売国政治家である民主党議員、そして共和党の売国議員。家族を守り、朴訥にキリスト教を信じる、心優しい自分たちの時代がついに来た、というわけだ。
このような政治テロに世界は揺り動かされている。このような愚かな「色物」たちに「アメリカ国債の支払い履行」という人質を取られた。アメリカの色々な矛盾が世界の不安定さを助長している。オバマは内政の拗れで、自身が重要であると説くアジアのアセアン会議にすら参加できなかった。一方、アセアンでは習近平が着実に力を誇示している。周辺国は、その出方や厚かましさを恐れつつも、経済的な協力を請い願うという、皮肉な外交が展開されている。
癌の治療に四苦八苦する病床にうつ伏すアメリカという「駁」。「駁」がいない事を良い事に、張り子の虎で調子に乗る中国共産党。世界はかくも面白い。
いくらティーパーティー議員が調子に乗ったところで、デフォルトにはならないだろう。ただし、前述の野球プレイオフの予想くらい外れる事があるので、楽観的に気を付けてほしい。まあ、気を付けたところで、米国国債のデフォルトというイベントに対して打つ手はなさそうだが。
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