12/30/2012

時間切れ間近。財政の崖問題:バッドディールよりはノーディールを望む


フィジカル・クリフ(財政の崖)の問題が大詰めを迎えようとしている。年末の期限までに決められなければどうなるのか?ブッシュ政権下で導入された大型減税策が2012年末で期限切れとなり、このまま新年を迎えると自動的に増税となる。さらに、大規模財政赤字削減が強制発動され、国防費を中心に10年間で最大12000億ドルの歳出削減が実施される。

テレビをボーっと眺めている人にとっては、「財政の崖」は早急に議会が折衝して法案を通すべき問題であるのかもしれない。対策をとらなければ米国経済はマイナス成長となる可能性が高く、景気後退に陥る危険性がある。だからこそ、バーナンキがこの問題を大袈裟に財政の「崖」などと比喩したのである。法案が決められないのは共和党がサボタージュをしているからであり、オバマや民主党が選挙で勝ったのだから、わがままを言わずに早急に通せば良い。CNNなどを見ているとこういった意見が主流のようだ。

年末までに議会が何も決められず「財政の崖」から落ちる事態になると、具体的にどのような結末が待っているのだろうか?年収が500万円程度の個人であれば17万円ほど、子供が二人いる家庭であれば19万円ほどの増税となる。年収が2000万円程度の個人であれば75万円ほど、子供が二人いる家庭であれば63万円ほどの増税となる(1ドル100円で計算)。かなりの額である。さらには、健康保険、教育、失業保険などへの歳出が減らされるため、それ相応のサービス低下が発生する。失業保険は減らされ、職がない人には厳しい。住宅ローン減税なども下げられ、負担が増える。

様々な助成金も削減される。例えば酪農家に対する助成金が国から来ており、それがなくなってしまうので、ただでさえ日本より高くて不味い牛乳の値段が倍増する恐れがあるとされている。

連邦政府(国)から州政府に多くの金が流れているため、州ごとに色々な影響が考えられる。カリフォルニア州など一部の州では、税金から州へ行く額が増えて、州の財政の足しになる。ただ州税に関しては不確定要素が多くなるため、納めすぎた税金の返還が遅延する可能性が言われている。

一部の州では相続税が「いきなり」復活する。年を越えて親が死んだ家族は大損する。どうせ死ぬなら大晦日までに死んで欲しいものだ。一番の問題は企業の特殊減税措置のうち失効したり変更されたりする物が出てくることだろう。株の配当に対する税金もあがる。すると株から他の資産、例えば国債に資金が流れ、株価が大幅に下落することが考えられる。

ただ長期的な財政の問題は劇的に良化する。アメリカも日本と同様に歳出過多が続いており、早晩に財政問題に手をつける必要がある。現状ではFRBのツイストオペレーションにより長期国債の利率は物凄く低止まりしているが、景気低迷時に長期利率がじわじわと騰がりかねない事態は、どこの国でも歓迎されない。

シーホークス対ラムズの消化試合を見ながら、現在この文章を書いているのだが、時間切れの時計は30時間を切った。新しい法案には、ミュニシパルボンドの配当に課税する、など個人的に嬉しくないような案も含まれているようである。財政問題の小手先の改悪をすると、アメリカもそのうちスタグフレーションや財政破綻に直面してしまうだろう。

個人的な見解として、ノーディール(取引なし)で財政の崖を落ちる方がバッドディール(悪い取引)よりはマシだと考えている。アメリカの長期的な発展のためには思い切った歳出カットと増税は避けて通れないからだ。下手にデット・シーリング(債務限度)を取り払うなど、政治家好みの政策にすると、再び米国は国債の格付けを落とされる事態になる。政治がこじれたフリをして、財政の崖から態と転落し、財政問題を解決すれば、その後の政策決定が比較的簡単になる筈だ。

まあ年末までに同意できなかったとしても、大袈裟にいわれているような崖から落ちてしまうイメージではない。一月から影響が徐々に出始めるが、なんらかの同意がなされれば影響はとても小さなものに抑えられる。

短期の利をとり長期的な凋落傾向を選ぶのか、短期に苦しみ中長期の問題解決に向かうのか?残念ながら、多くの人が前者を選んでしまうから民主主義に財政問題は任せられない。

仮に「財政の崖」問題を一部解決したとしても、来年二月には再びデット・シーリングが来る。DCは再び民主党と共和党の間でカブキダンスを踊る事態になるのだろう。長期的な視野に基づいて、アメリカ全体の繁栄だけに目的を絞って政策決定をして欲しいと願う。アメリカの場合は、(日本とは違って)政党の後ろ立てに優秀な頭脳があるので、そういった人達の決定は最善である、と信じたい。だから私は気を病むことなくフットボールを観戦する。ゴー、シーホークス!

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