一昔前まで、危機感を抱かない日本人を諌める目的で「ぼーっとしてたら韓国や台湾に負けるぞ」と言う人達が少なからずいた。こういう意見に触れ、大概の人達は「あり得ない」の一言で済ましていたし、実際にあり得ないと信じていた。警鐘を鳴らすのが目的であり、言っている側もそんな事はあり得ないと腹では括っていた。
個人的な見解だが、勢いと言う意味で、日本は完全に韓国に負けてしまったと思っている。韓国に負けたと言うと、それを認めない人達が一杯いることは承知している。ウォンは安いし、所得は低いし、格差は大きいし、大企業では労働組合すら認められていない、などと考える人が大勢いる。そもそも、韓国の成功はIMFのお陰ではないか、と。
逆から物を見ると、日本が変な方向に行ってしまっただけなのかも知れない。日本の凋落振りが恐ろしいのだ。他の国は普通に走ってきているのに、日本だけが必死に昼寝をしていた感じがあるのだ。世界は競争しているのだから、昼寝をしていると亀
に追い越されるのは、子供の時から聞かされている童話と同じ事である。
電化製品部門での韓国勢の勢いが凄くなったのはここ10年ほどである。以前は、ソニーと言えば高品質の代名詞で皆が憧れるブランドであった。私がアメリカにやって来たのは10年少し前なのだが、その頃日本市場にはサムソンやLGはほぼ皆無であった。アメリカの量販店でサムソンやLGが並んでいるのを見て、鼻で笑ったものだった。しかしサムソンとLGが世界市場を席巻し始める。ソニーはそのブランド力にあぐらをかいており、都市に住む洗練された人達をターゲットにした。多くの経済メディアで指摘されていたが、金にならないイノベーションに力を入れていた感があった。その頃、サムソンやLGは新興国の金持ち連中を中心のニッチマーケットを開発した。ソニーが無駄な多機能性などに力を入れている間、サムソンやLGはマーケットを確実に拡げ、ブランド力の無さと言う最大の弱点を克服した。安かろう悪かろうの韓国製品が、安くて良い商品、つまり昔の日本の製品のようなポジションに収まったのだ。逆に、成功にあぐらをかいていた日本の会社は、何をやっても世界は自分たちの商品に夢中になっていると考えたのか、値段を吊り上げ始める。高いだけの商品に成り下がってしまったのだ。しかも、メイドインチャイナが世界を席巻し、主に台湾系のOEMに製造を頼らなくなると、サムソンであれ、ソニーであれ、品質に差がなくなってしまった。差は無駄な多機能の分だけ日本製が高いのだ。しかも、無駄な多機能は壊れる確率が高くなり、顧客満足度が落ちてしまう。その結果、ソニーやパナソニックは悪い噂が流れ始め、ブランド価値すらおかしくなっているのだ。最近では、ソニーよりもサムソンの方が性能が良い、などといった意見を聞く機会も多い。パナソニック?それはウサギの電池のブランド?
車にしてもそうである。ホンダやトヨタの牙城に、現代や起亜が食い込んできた。安かろう悪かろうでは無く、品質も上がってきており、ヒュンダイの車は顧客満足の部門でも上位に入っている。起亜はターゲットを絞り込み、的確なマーケティングで市場を伸ばしている。成功しすぎた日本勢は、ターゲットやポジショニングというマーケティング手段を使えず、ジェネリックでありながらニッチをターゲットにしたような中途半端なマーケティングを展開せざるをえないような状況に陥っているのだ。私は、次に車を買い替えるときには、ヒュンダイでも良いとさえ考えている(ただ多くの日本人にそれだけは止めとけと言われています)。
ドラマや音楽の世界での韓国の出しゃばり方は、あえて筆を割く必要すらないだろう。日本の音楽やテレビ産業が「あちゃらを」向いて「オタク」に焦点を合わせ過ぎた隙に、韓国の会社は万人受けするコンテンツを入れて来た。日本人はここでもイノベーションの意味を履き違えた感がある。挙句の果てには、パナソニックの経営が怪しくなって、水戸黄門ですら放送終了させなければならないような話になっているのだ(しかし、ここ数年の水戸黄門は痴呆の老人をターゲットにしたようなシナリオで、視聴率が下がってきた事も理解できます)。
敢えて韓国と比べてみたが、日本の凋落が目立っているのが問題なのだ。PC市場における台湾勢やサムソンとの競争など、他にも例に暇がない。企業のライフサイクルはあろうが、「商売」の意味をもう一度見つめなおし、大企業病を払拭し、アメリカに追いつけ追い越せに命を掛けていた80年代のような活躍を期待したい。ビジネスにおけるイノベーションとは何かということをもう一度真剣に吟味して欲しい。マーケティングとは何かを自答して欲しい。ただ現実は、日本の凋落を円高や高い税金のせいにして、大企業は政商のごとく日本社会全員で溺れようとしているようにしか写らない。穿った見方をすれば、一度日本がデフォルトすれば、韓国のように這い上がれると思っているのだろうか?
韓国企業もあと20年ほど経てば、日本の今の現状をはっきりと理解できる日が来るであろうことが唯一の救いなのだが。
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