このブログはアメリカの「痛い食生活」を少しでも誤魔化すために、食べ物の楽しい話題を中心に書こうと思って始めたのだが、スポーツやどうでも良い政治や経済の話題にばかり感けており、食べ物の話題がおざなりになっている。久々の食の話題だ。
クリスマスシーズンという事もあり、欧米人がクリスマスシーズンに好んで食べる食材について語ってみようと思う。その食材とは、仔牛である。英語ではVeal(ヴィール)と呼ぶ。ヴィールは豚肉の様な白い色をしており、普通の牛肉に比べて値段が馬鹿高い。欧米ではクリスマスシーズンにVealを調理する家庭が結構ある。日本でも、フランスレストランなどに行き「仔牛のソテー、春アスパラガス和え」とか「仔牛の赤ワイン煮込みブルゴーニュ風」などと書かれていれば、誰でも美味しそうに思ってしまう。しかも、「子牛」ではなくて「仔牛」というのがミソである。
仔牛料理の「簡単な」レシピを紹介したい。
まずは一般的な食べ方から。仔牛のカツレツ・ミラネーゼである。仔牛のロース肉を買ってきて、塩胡椒して、小麦粉、卵とパルメジャンチーズとパン粉に潜らせて、オリーブオイルで揚げれば出来上がりだ。レモンを絞って食べる(ただレモンは仔牛の味と全く合わない)。
続いてはドイツ南部で習ったクリスマス風のレシピだ。仔牛の一口大厚切りロース肉に塩胡椒をして小麦粉をまぶし、セージとパンチェッタ(なければベーコン)で巻き、オリーブオイルを入れたフライパンで焼く。以上で出来上がりだ。恐らく、これはイタリア料理のスカロピーネをアレンジしたレシピだと思われる。
上述の料理が「仔牛のカツレツ・ミラノ風」とか「仔牛のセージ風味パンチェッタ巻きロースト」などとレストランで書かれていれば、思わず注文してしまうだろう。
しかし、ちょっと待った!私は仔牛という食材が大嫌いだ。確かに、軟らかいし、脂も少ない。逆に言えば、蛋白すぎると批判できる。酪農農家にとって、乳牛はメスしか要らないので、仔牛肉はホルスタインの雄を早く処分する賢い方法であろう。珍しく、なんとなく美味しそうだ。
しかし、若い肉である仔牛は脂の乗りが悪く、深い味わいがしない。仔牛が美味しくない理由は、ボジョレヌーボーが薄すぎて深い味わいを楽しめないのと同じことだと思う。
科学的に言うと、あらゆるタンパク質に味の差はなく、肉の味は全て脂が由来である。訳の解らない赤みの肉に牛脂を注入すると高級ホテルの献立になるカラクリは、こういう科学的な理由からである。蛋白で脂がない仔牛肉をステーキやローストにすれば、味が薄すぎて箸がすすまない。絶対に成牛を使うべきだ。成牛特有の脂が料理を美味しくするのである。もし、何も知らない人が仔牛のステーキを食べれば「味気ない独特な豚肉だなぁ」と感じるだろう。仔牛のステーキが、ニューヨークストリップステーキやリブアイよりも値段が高く、しかもそれにお金を出す人がいるという理由は理解に苦しむ。
たまにレストランで悪くない仔牛料理に出会う人もいるようだが、それは牛脂やバターやオリーブオイルや砂糖などで調理師が巧く仔牛の淡白であるという欠点を補っているのだ。良く言えば調理師の腕が巧い、悪く言えば素材の良さを蔑ろにした料理、という事になる。伝統あるフランス料理には「ピケ」という技法がある。仔牛肉にコクを加えるため、ピケ針で脂肪を差し込み、淡白さを誤魔化す(あれ?これって流行りの牛脂注入肉??)。
「仔牛のカツレツ・ミラノ風」とか「仔牛のセージ風味パンチェッタ巻きロースト」など、食べるに値しない料理である。「パルメジャンチーズ入り豚カツ」とか「豚ロースのセージ風味パンチェッタ巻きロースト」にすれば、100倍楽しく食べられるだろう。病気か何かの理由で、動物由来の脂を食べる事が出来ないと信じている老人を除いて、仔牛肉は驚くほどコストパフォーマンスに劣る食材である。レストランで仔牛を注文してグルメぶっている人がいれば、鼻先で笑ってやって欲しいのだ。まあ、鶏の胸肉とか、七面鳥とか、ウェルダンのフィレミニョンとか、淡白な肉が好きと言って憚らない人達が数多くいるのも確かであるが、その人たちはきっと私とは違う神様を信じているのであろう(笑)。
1 件のコメント:
とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
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