12月の初めに北朝鮮の張成沢が失脚したというニュースが伝わった。理由は、テレビ放送などで張成沢が写っていたシーンに人為的な修正を加えて放送しているというものであった。それが何を意味するかは大体わかっていたが、真意は掴めなかった。その後、顔に殴られたような痣が出来た張氏が特別軍事裁判の被告人席で両手首に手錠のようなものをはめられ、秘密警察とみられる2人に首や腕をつかまれたまま立っている姿は、先代の時から北朝鮮のNo.2を長年務めた人物とは思えないほどだった。そして、すぐに死刑が執行されたというニュースが飛び込んできた。
一般のニュースを読むと、金正恩を怒らせたため、或いは一党独裁体制を誇示するために非道にも義理の叔父であり後見人の張成沢を粛清したという見方が挙げられている。しかし、北朝鮮問題に詳しい人で、これらの意見に与する人はほとんどいないと思う。数か月前に、元ブルズのロッドマンと自身が所有する島に遊びに行って、水上スキーなどを楽しんでいるような若僧にこのような真似は出来ない。金正恩がただのお飾りであることは論を待たない。
誰が張成沢を消したのか?「軍部」で間違いないと思うのだが、すこしばかり詳しい話をする必要があるだろう。まずは金正日が死去した(事実は疑わしい)と報道された2011年末に行われた国葬のニュースから。
「北朝鮮の金正日総書記の国葬の葬列から、総書記の妹婿の張成沢、朝鮮人民軍の李英鎬総参謀長ら7人が正恩氏の新体制を支える中枢グループであることが鮮明になった。7人は、張成沢、李英鎬、金己男朝鮮労働党書記、崔泰福最高人民会議議長、金永春人民武力相、金正覚軍総政治局第1副局長、禹東則国家安全保衛部第1副部長。霊柩車の右側前方に立った金正恩の後ろに、張成沢、金己男、崔泰福が従った。左側には、李英鎬、金永春、金正覚、禹東則とみられる人物が並んだ。」
それから一年半ほどが過ぎ、
それから一年半ほどが過ぎ、
金永春(失脚・生死不明):2012年4月に人民武力部長を退任し、同4月11日の第4回党代表者会において党中央委員会部長に転出した。事実上の失脚である。
禹東則(失脚・生死不明):2012年4月13日に行われた第12期最高人民会議第5回会議では、それまでのメンバーのうち唯一人だけ国防委員のリストには載せられず、解任されれた。脳内出血で倒れて前進が麻痺したという談話もある。
李英鎬(恐らく殺害済み):2012年7月15日の政治局会議において、「病気を理由に」全ての党の役職から解任された。解任に際し、李英鎬の護衛兵が反発し、交戦が発生し、戦闘に巻き込まれ、負傷もしくは死亡した可能性もある。失脚には、軍部が独占してきた対外貿易の利権を内閣に返そうという試みの中で、李を中心とする軍部が障害となったために発生したとの分析がある。
金正覚(失脚・生死不明):2013年4月1日に開催された第12期最高人民会議第7回会議で国防委員会委員から解任されたことが確認された。
金正覚(失脚・生死不明):2013年4月1日に開催された第12期最高人民会議第7回会議で国防委員会委員から解任されたことが確認された。
金正恩の左側に並んだ人物達は、軍関係者であり、元々は金正日の次男である金正哲を国家主導者として推薦していたグループだ。それを右側に並んだ文民組の張派が推薦する金正恩で押し切られた形になったのだ。しかも軍部関係者の後見人である4人が4人とも失脚、あるいは粛清された。それを指揮したのは文民系で改革開放路線を行こうとする張成沢で間違いないと思われる。軍部の親玉であった李英鎬とは、交戦まで交えて粛清したようだ。軍が対外貿易の利権を握っていたため、文民派がこれを奪い去り、邪魔者たちを消し去り、政府側に貿易の利権を移し、改革開放路線を取ったのだ。一方で、軍部から恨みを買った張成沢氏は、機を見計らって、ついには抹殺されてしまった。こんなに非人道的かつ露骨で迅速なやり方は、軍部からの恨み以外の理由では説明できない。しかも「国の貴重な資源を安価で売る売国行為」を張成沢の罪目の一つとした点でも、李英鎬を中心とした軍部との利権がらみの軋轢が見て取れるだろう。
今後注目するべき点がいくつかある。1)金正日の妹であり張成沢の妻である金敬姫はどこに行ったのか?2)国葬に参加した金己男と崔泰福の身の安全は大丈夫か?3)軍部のトップである成り上りの崔龍海はどういったポジションに着くのか?4)何よりも張成沢の傀儡であった金正恩の身の安全は大丈夫なのか?という事になる。崔泰福が亡命、などといったニュースが入ってくれば、危険事態であると判断して欲しい。下手したら第二次朝鮮動乱が始まるような事態さえ考えられる。お飾りに過ぎない金正恩は生かしておいてこそ利用価値があるので、直接殺害するような真似はしないだろう。
この一年ほど、北朝鮮が軍部のコントロールに苦慮している様子は外から観察できていた。文民派と仲良しである中国共産党の意見すら聞かないようになった。李英鎬を粛清した事で重石がとれて、政権側は軍部のコントロールに手をあまねいているのだろう。そして今回の露骨な張成沢の抹殺である。事実上の軍部による政権内のクーデターと考えても良いだろう。軍部が力を握ってしまう北朝鮮の今後の動きが恐ろしい。「冷徹な金正恩が目の上のたんこぶである叔父を粛清」といった幼稚なアホ記事は読むに値しない。
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