今回は警察問題を一回中断して財政再建の話をしたい。スタンダード&プアーズにより日本国債の格付けがAAからAA-に落とされた。ムーディーズが日本の格付けを落とすのも時間の問題と言えよう。格付けはデフォルト(債務不履行)が起こる可能性を示唆する指標である。世間では不履行が起きるか起きないかなどの議論が喧しいが、それは日本国債を買っている海外投資家には問題であるのであろうが、日本在住の生活者の視点が欠落していると感じざるを得ない。日本国債問題によって引き起こされる財政問題の結論はほぼ決まっている。どのような解決法をとるにせよ、中期的に日本人の生活の質はどんどんと下がって行くと予想される。「日本国債の債務不履行が起きるかどうか」、という質問をされれば、「そんな話は重要でない」、と私は答える。最後には日銀が紙幣を刷れば終わりなので、債務不履行が起こる可能性は極めて低い。しかし、債務不履行が起こらなかったとしても、違う問題が起きるだけの話なのだ。何れにせよ、日本の財政状況はにっちもさっちも行かない状況になってきた。数年前にはまだ改善の余地があったのだが、日本沈没のシナリオを避けて通る事は出来そうにないと考えるようになってきた。
「歳入」のうち、公債金収入が税収入を上回ってしまった。これは収入以上をローンで借りているようなものである。社会保障と国債の償還が大きな割合いを占めている「歳出」は今後は爆発的に増え続ける。一方、日本の現状は人口衰退傾向にあり、新たな基幹産業が興る可能性も乏しく、「歳入」が爆発的に、そして持続的に増える可能性はほぼ無い。つまり常識的に考えれば、財政は破綻への道をまっしぐらに進んでいる。この状態は継続維持できないので、何らかの方法で財政を改革する必要が出てくる。今後日本が進む道としては、大きく4つの道があるだろう。1)何もしないで事を先伸ばしてデフォルトする亀井案。2)増税を行う与謝野案。3)インフレに持っていく勝間-上げ潮案。4)歳出を極端に減らす小さな政府案。行き着く結論は全て一緒なのだが、それぞれの案によって勝ち組と負け組みが分かれるので、一つずつを精査したい。
1) デフォルト待ちの亀井案
何もしない。現状を維持できるのであればこれほど素晴らしい事はない。何かしようとすれば必ず反対する輩が現れるが、何もしないことは批判されにくい。「日本の国債は殆どが国内で消化されている故に国債は安全極まりない」、これがこのグループが口にする常套句である。これはある状況下では正しい。国債が現状のように国内で消化され続ける限りは現状維持する筈であろう。つまり亀井案を成り立たせるためには、国民が国債を買い続ける、つまり永続的に貯蓄をし続けることが出来るかどうかが鍵になる。データを見れば解るが、日本人の貯蓄率は下がり続けている。貯蓄率は1991年には15%あった。それが90年代の後半には10%前後にまで落ち、2001年には5%を記録し、現在は徐々に下がりつつ、3%程を推移している。この率がゼロになった時、亀井案が瓦解するときである。
その時にはどうなるのか?亀井案は明確な解答を示している。日本人は貯蓄に励んでいるので、国の借金は心配しなくて大丈夫だ、と。要するに国債が消化されなくなれば、預金封鎖でもして貯金を掠めますよ、と言っているのだ。そうなればどうなるのか?この案の先には最悪の結論が待ち構えている。
そのような事態になれば、いくらおとなしい日本人でもあちこちで暴動を起こすだろう。IMFが介入してくれるといった楽観論もあろうが、日本ほど大きな経済をIMFが救えるのだろうか?外貨預金(米ドル)が一杯あるので、ドルを売れという意見もあろうが、そんなことをすればアメリカと中国が困る。第一、アメリカと日本が共倒れしたら、世界の終わりである。IMFが日本を救えない事がばれれば、下手したら中国やロシアなどが軍事介入してきたり、中国軍とアメリカ軍が日本の処理を巡って衝突するなどといった最悪の事態すら想定される。このシナリオの行き着く先は、「世界を巻き添えに日本沈没」といった最悪のシナリオだ。国内では、預金を持つ一般市民、企業、公務員。全ての人が大打撃を受ける。日本が無茶苦茶になって底を打てば、やがて内外から割安の日本資産を買い漁る動きが出てくるだろう。ただ預金封鎖をして、個人の資産に手をつける政府が、危機の中でどのように所有権を保証してくれるのかは定かではない。自分が引退するまで誤魔化しながら上手く過ごしたいと考えている官僚や政治家が多いのは解る。嵐の前の静けさの現状が暫く続き、極端なハードランディングを経験し、その後徐々に上向く。このシナリオは出来れば避けて欲しい。
2) 増税!与謝野案
与謝野増税案が面白いのは、インフレを起こさずに増税だけで問題解決をしたいと言っている点だ。財政は足し算引き算なので、入るものが増えれば問題は解決する筈である。ただ、どの程度増やせば問題が解決するのか?消費税を30%に上げたとしても、社会保障はどうにかなるものの、国債償還の目処は立たないという計算がある。逆に信念なき民主党は何をトチ狂ったのか、企業の法人税は下げてしまった。減税の評価はさておき、それをもって民主党が言ってきたこととやっている事が全く一致していないと感じるのは筆者だけでは無い筈である。付加価値税の導入などは、増税というよりは公平性のみの問題だ。付加価値税を導入すれば何かが解決するわけではない。財政の埋め合わせには、結局取れるところから取るしかないという事になる。タバコ、ガソリン、酒。これらは今後とも狙われるに決まっている。さらには、寵物税、外食税、インターネット接続税、公共交通利用税…このような税金をつけてとことん取れるところから取るのであろう。相続税の値上げは規定路線だし、過度な累進課税の復活も時間の問題であろう。ただ、一番恐ろしいのは資産税の導入である。資産に対して税金がかけられれば、金持ちが泣く事になる。
いずれにせよ増税は経済を殺す。増税によって過度なマネーサプライは抑えられるかもしれないが、経済は停滞し、その反動で円安にはなるものの、長期的な需要減の問題が発生するだろう。働いても国に取られるのがオチなので、労働意欲がなくなる可能性もある。優秀な人材や企業は海外に活躍の場を求めて逃げていくかもしれない。この政策が行き着く先もかなり暗い。
勝ち組は現在一定の収入を得ており、クビになる危険性のない人達、つまり公務員だ。デフレが続けば相対的に自分たちの生活の質は良くなる。現金に資産税が導入されないという前提で、現金の貯蓄が多い人も喜ぶかもしれない。負け組は起業家だ。頑張るのは馬鹿らしい社会だ。まるでソ連の末期のような暗い未来が私たちの前に立ちはだかる。増税社会主義が良い人は与謝野を応援すればいい。長いじわじわとした転落が待っている。
3) インフレ歓迎!勝間案
デフレを解消させれば全てが解消するといった単純な話を良く聞く。生産性があがり、需給ギャップがなくなり、適度なインフレが起これば良いのは間違いない。それが出来るに越した事はないのだ。ただインフレを導入すれば全てが解決するというのは、はっきり言って馬鹿げている。そんな訳がないからだ。ただ単にインフレにぶれさせれば、割引率が上がる、つまりは資産のフェアヴァリューが下がってしまうのだ。つまりインフレは国民が保有する円建て資産を目減りさせる。要するに、数字のインフレは資産税と同じ作用を起こすのだ。
この案で損するのは、公務員や退職した老人たちだ。回りの物の値段があがるので、自分たちは相対的に貧乏になる。現金預金している人も損をする可能性が高い。ただし起業家や若年層が夢を持てるのは、この案の優れている点である。土地や株にお金を入れている人も得をする可能性があるかも知れない。ただそれは額面価値で見たときの話であって、フェアバリュー自体がインフレによって下がる事は先ほど述べた通りである。日本の未来はこの案で解決するのだろうか?大量の生活に困窮する老人を生み出すことになり、円安にぶれ、人々の生活の質は悪くなる。ただ起業家たちが新たな時代の価値を見つけ出してくれるような可能性もあり、若干の期待が持てる社会になるかもしれない。
ただインフレ派が正直でないのは、何パーセントのインフレをターゲットにすれば財政問題が解決するかを提示していない点にある。どう考えても1-2%ではすまない筈だ。そしてインフレが起これば、新たな国債の利率も上げなければならないし、それを支払う必要も出てくる。そして、何より、過去の国債の価格が下がってしまう。インフレターゲットをコントロールできずにハイパーインフレに突入するシナリオはかなり高い。
4) 歳出削減の極端に小さな政府案
歳出は削減するべきだ。日本の政官財暴警の異様な癒着を壊して、まともな資本主義を導入できればそれに越した事はない。それでなくても歳入が減っているのだから、それに見合った生活をしなければならないのは言うまでもない。無駄な財団法人や試験機関などはすぐにでも潰すべきだし、公務員の数など5分の1くらいになったとしてもまだ多いと思う。弁護士なども極端に減らすべきだし、無駄な法律も廃止してどんどん規制緩和するべきだ、それが私が望む未来である。ただ歳出の削減に言及した場合、社会保障を極端に減らす必要がある。法律を改正して、社会保障を減らして、公務員を減らせば、短期的に見るとかなり需要が落ち込むことになろう。首をきられる公務員も痛むし、需要減で社会も痛む。デフレプレッシャーが多少発生し、総生産量は目減りして、経済規模が小さくなり、日本の生活の質は落ちる。年金をあてにしていた団塊の世代はかなり不公平を感じるだろうし、各地で老人による暴動が発生するかもしれない。政府が面倒を見てくれないので、生活苦の末にクビを吊る人も増えるだろう。短期間にはかなりの出血を覚悟するが、やがて徐々に日本の先行きは明るくなる。
結論
4つのシナリオを見てきたが、どの道を進もうとも、茨の道が待ち構えている。事の発端は自民党政権なのだろうが、民主党は真剣に無能だった。私は4と3の組み合わせを願いたいのだが、4は法律面からほぼ不可能に近いと思う。3が一番簡単な道だと思う。ただ、官僚や政治家の立場なら、何もしないというシナリオ1を取りたい衝動に駆られてしまう。どうせ批判されるのだったら、自分は逃げ切ろうと思うのも無理はない。2のシナリオは、いくら与謝野が頑張ろうとも、まず成功しないと思う。
極論を言うと、自分の身は自分で守るしかない。読者の皆様はババを摑まされないように賢く行動されればいいと思う。ただそういった行動は非常に売国的(何故なら危機の到来を早める)であるという事は予め知っておいて欲しい。ただ個人的に、私は日本というタイタニックと一緒に沈没する気は毛頭無く、自分さえ助かればいいと思っている。ゲーム理論的な物事の考え方をして、皆が今後どういう方向に行動するかを考えれば、私なら今のうちに分散させて海外の資産を買って置く。
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