1) 駐車禁止の利権と零細商売の終幕
2006年6月の道路交通法の改正によって、放置違反金制度の新設、放置車両確認事務等の違法駐車対策の推進を図るための規定が整備された。その一環として、放置車両「確認」事務の業務が「民間法人」に開放され、警察署長が公安委員会に法人登録した「民間法人」に業務委託が可能になった。それらの放置車両確認期間は「駐車監視員」と呼ばれる「みなし公務員」を派遣し、違法駐車の確認を行い、その報告に基づいて警察官が切符を切る。要するに、警察は違法駐車取締りの「確認」を「民間法人」にアウトソースする事ができるようになったのだ。
駐車管理員制度の第一の問題は、警察権力が「民間法人」と契約することにより、それら警備会社などに一定の力を及ばせることが出来ると言うこと、つまり天下りの温床になりやすいと言うことである。そして駐車監視員を養成するための講座や教科書が発行されている事も面白い。免許更新などのときにも無意味な資料を貰えるので、多くの人が知っていると思うが、このような試験や教科書を発行する機関は完全な天下り先である。アウトソースをして税金を節約する、などと綺麗ごとを言いながら、ちゃっかりと自分たちの活動の裾野を拡げているのである。金銭問題云々よりも、天下りは癒着の温床になりやすく、資本主義がゆがめられる危険性があるので社会に負の外部性をもたらす。
駐車監視員制度の第二の問題は、過度な駐車違反取り締まり強化である。法律の上でも、モラルの上でも、駐車違反はいけない事になっている。駐車違反が時として重大な事故などを起こす可能性があることは反論のしようがない。そして駐車違反で迷惑を被ることも多々あるので、駐車違反を撲滅すれば良いと考えている人も多数いるだろう(ならば、市民が責任を持って迷惑駐車を警察に通報すれば良いだけの話なのだが)。民間の駐車監視員が駐車禁止を取り締まる場合、既に多くの人が経験しているように、容赦なく駐車違反が取り締まられる。警察官であれば、普通はチョークで印をつけておいて、暫くしてから再び点検に来るわけで、その範囲内での違反は技術的には許されていたわけである。通常違反駐車をする場合は悪質な場合を除いて、ドライバー側にもそれなりの事情があるものだ。そのような事情を一切配慮せずに、駐車監視員が厳しすぎる法律を施行すれば、色々な問題が生じるだろう。迷惑駐車取締りの強化こそが当法案の意図である為に、今から書く事は既に考慮されているはずである。
クリーニング屋であれ、不動産屋であれ、雑貨屋であれ、大通り沿いで商売をしている人がいるとする。駐車場にわざわざ車を停めて店に行くのは面倒なので、普通は5分ほど違法駐車をして店による。しかし5分の駐車ですら、切符を切られる可能性があるとすれば、客は困る。客が駐車禁止を取られれば、店の顧客満足度は下がるし、客が必然的に減ることになる。これでは商売は成り立たない。多くの大通り沿いの家族経営の食堂なども、タクシー運転手や仕事のついでに昼食をとる人達を中心に商売している。駐車監視員が目を光らせている現状では、駐車場を持っている大手以外の店で食べるリスクは取りにくい。コンビニの弁当ですませて車の中で食べようと考える人もかなり出てくるだろう。つまり、大手資本が有利になり、零細店舗の経営が成り立たなくなる。社会正義の大義名分の下、警察の天下り確保のために、家族経営の小さな店が潰れ、駐車場を持てるくらいの大きな店のみが生き残っていくことになる可能性がある訳だ。企業社会主義に向かって日本は着実に進路を取っていることになる。
また配達や工事などで車両を使わなければならない職業に従事している都会の人達が、駐車監視員を通じて切符を切られることを恐れ、商売以外の余計なことに頭を使わなければならなくなっている。日本に帰国した際に、クロネコヤマトが自転車で配達しているのを初めて見た時には、私は情けなくて仕方がなかった。警察の不要な迷惑駐車一掃作戦が無駄なビジネスコストを生み出しているのだ。当たり前だが、ビジネスコストが生まれれば、景気は下に振れる。
長期的に見ると、ますます都会の人々は公共交通機関使用に傾いていくだろうし、車の使用をますます思い留まらせる事態となるだろう。それでなくても人口が減って車の消費が伸び悩んでいる中で、このような無意味な罰則強化をして、社会の動きを悪くさせる理由が理解できない。通行税と関所を廃止すれば経済が上向くのは、織田信長の時代からの常識だ。景気を支えるためには無駄なビジネスコストを生み出している規制は撤廃するべきであるのだ。迷惑駐車の追放という名の社会正義が、結果として通行税や関所になっていることを市民がはっきりと認識しなければならない。どちらにしても、水清くして魚は住まず。駐車違反を撲滅して、商売はあがったり、そして誰も車に乗らなくなる。或いはこれも流行りの「エコ」なのか?
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