浙江省は上海市の南側に位置しており、中国国内でも所得の高い人が住むことで有名な省である。省都の杭州市は上海の衛星都市としての役割を果たしているし、上海から橋を渡れば古くからの港湾都市として栄える寧波市にも行ける。金華ハムで有名な金華市や、紹興酒の名前にもなっている紹興市も浙江省にある。そして、本日のトピックとして一番大切な温州市も浙江省の南部に位置する都市である。
日本で温州といえば、温州みかんを思い浮かべるかも知れない(ちなみに温州みかんと温州市とは全く関係ない)。高速鉄道の脱線事故でその名を聞いた人も大勢いることと思う。中華圏で温州といえば「温州商人」という言葉が始めに頭をよぎる。温州商人は商売が巧い事で知られている。世界中に張り巡らせたネットワークを駆使し、ひたすら金を儲ける。製造業で稼いだお金で、北京や上海の新築マンションを買い漁る。内蒙古では石炭山の利権を手に入れる。インドでは鉄を買い漁り、バブルが崩壊したドバイの不動産を買い漁る。その派手なネットワークから「中国のユダヤ人」との異名を取ることもある(福建省から広東省にかけて住んでいた「客家人」も同じあだ名で呼ばれているが)。
その温州商人が、香港や台湾のビジネスニュースで取り上げられ始めたのは国慶節を前にした9月の末頃からだ。温州商人の間で夜逃げが常態化している、という物だった。先の段落を読んでもらえれば解るのだが、温州商人のビジネスストラテジーは、要は「買い漁る」という一言に尽きる。バブル華やかしき80年代後半の日本で地上げ屋さんがやった商売となんら変わらない。この戦略は、経済が右肩上がりであれば儲かり続ける。ただ資産を増やし続けるためには、現存の資産を抵当に入れて、お金を調達せざるを得ず、危ないソースからお金を借りてしまうことがあるのは、古今東西共通している。温州商人たちは、景気がピークを越えたのを察知し、貸し剥がされる前に夜逃げを始めている、という事であった。雇用されていた人達は、いつもと同じように会社に行くと、老闆(ラオパン:社長の事)が夜逃げしており、建物がもぬけの殻になっており、給料も払ってもらえずに無き寝入りをせざるを得ない、ということだ。
この話が真実だとすれば、中国の経済はかなりややこしくなっていると考えて差し支えない。ただ私は、リーマンショック後の2009年頃にも同じような話を聞いており、ゴシップ好きの香港メディアから漏れた温州商人の逸話だけをもって、中国経済を騙るのは大変危険だと考える。しかし、中国で実際に商売をしている人達からは、今年の春ごろから急に在庫が増えてきた、といった話しも聞いている。
中国のバブルが吹き飛ぶ事は、中国が健全に成長していく上で必要不可欠なことである。調整無しにして、中国は競争力を保てない。先進国の経済がくすぶる中、量的緩和で余ったお金が中国に還流し(キャリートレード)、世界経済を牽引していたのは事実である。温州発のインシデントが世界中にどのような影響を与えるのかというシステマティックリスクを考えておくことは、自分の身を護る上で非常に大切な事になるのは間違いない。
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