食べ物の話題を期待しいる方には悪いのだが、凱旋門賞を見ていて馬の話が書きたくなった。馬の話はなるべく避けて通りたかったのだが、ディープインパクトが良い競馬をしたので文章にしてみた。ディープインパクトが3着に沈んだというのは残念ではあるが、凱旋門賞とはそういうレースだ。新聞紙上に書いてある通り、3歳馬が断然有利なレースである。2002年のマリエンバード(牡4)および2001年のサキー(牡5)くらいが数少ない古馬の優勝馬だ。その前の事例になると、1993年のアーバンシー(牝4)まで遡らなければいけない。ロンシャンの起伏に3.5キロの斤量差はあまりにも大きいのだろう。
今回の凱旋門賞は三強対決と持て囃されていた。昨年の優勝馬ハリケーンラン、昨年のブリーダーズカップターフを制したシロッコ、そして日本が誇る三冠馬ディープインパクトであった。シロッコを他の二頭と比べるのは少し可哀想だが、まあ良いだろう。しかし私が残念でならないのは、本来ならあの場所にもう一頭の馬が走っていたはずだった、という事である。
その馬の名はバーバロ。2006年5月6日チャーチルダウンズ競馬場でケンタッキーダービーに出走した。フロリダでの前哨戦を戦ってやって来たので、人気はそれほど高くなかった。毎年同じようにオールドケンタッキーを皆が歌い、そしてスタートがきられる。北米ダートは逃げ馬が元気だ。強い逃げ馬が揃うダービーでは、毎年前半が早くなる「魔のペース」が作られる。次第に落ち着いてくるのだが、力の無い馬は順番に振り落とされる。中団につけたバーバロは、直線を向いた時には既に勝っていた。力が違いすぎる。バテて止まった馬を尻目に、チャーチルダウンズの直線を一頭だけで駆け抜けた。バーバロはデビューから6戦全勝。6馬身半差の歴史的な着差をつけて3歳馬チャンピオンに駆け上がった。
何故この馬が特別なのか?父親がダイナフォーマーだからだ。ダイナフォーマーは典型的な晩成の子を多く残し、ずぶく中々勝ちきれない。代表産駒であるダイネバーやパーフェクトドリフトの名前を挙げると、なるほどと思われるかもしれない。しかし最も重要な点は、ダイナフォーマーはロベルトの血を引き(サンデーサイレンスやブライアンズタイムと同じ)、芝の競馬でも期待できるという事だ。北米のダート路線はミスタープロスペクターの子孫が大活躍し、ヨーロッパの芝で活躍する馬はあまり出ない。しかし、ダイナフォーマー産駒のバーバロであれば、欧州の芝競争で勝つこともあり得るだろう。オーナーはダービーを勝った直後に凱旋門賞に挑戦するプランをぶち上げる。すでにディープインパクトが凱旋門賞参戦を表明していたので、10月1日はフランス・ロンシャン競馬場が、アジア、欧州そして北米の最強馬同士の最速決戦の場になるかもしれない。期待は膨らむ。まだその時には、誰もそんな悲劇が起こるとは思ってもいなかった。
三冠レースの二番目は、メリーランドはピムリコ競馬場で行われるプリークネス・ステークスだ。地味な印象は拭い去れない競争だが、誰もがバーバロの二冠を確信していた。1978年にアファームドが勝って以来の三冠馬の出現を期待していた。或いは、1977年シアトルスルー以来の無敗の三冠馬誕生に思いを馳せていた人達も大勢いただろう。スタート前、不吉な伏線があった。バーバロがゲートを押し破って放馬し、再度ゲートに入れなければならないというハプニングが起こったのだ。嫌な予感が漂う。一応バーバロはゲートに収まる。主催者側としても、ダービー馬を競争から除外することは出来なかった。一斉にゲートが開きスタートが切られる。バーバロは少しゆっくり目にスタートした。激しい位置取り争いがあり、最初のコーナーに向かう。その時、一頭の馬が大きく砕けてしまう。ダービーウィナーに故障発生だ。いぶし銀エドガー・プラドが鞍上で立ち上がり、必死に馬が暴れないように御している。騎手の思いを受けてか、バーバロは暴れることなく止まったが、後ろ足が完全に折れてぶらんぶらんとしているのが衛星中継の画面からも伝わる。私は即座にこう思った。これは予後不良で安楽死処分だな、と。
予想に反して、近年の獣医療技術の進歩はすさまじかった。ペンシルバニア大学に送られたバーバロは複雑骨折を数十本のボルトで繋げ止め、回復を試みられることになったのだ。だが、テンポイントを死に追いやった蹄葉炎がバーバロを襲う。何度も危篤の情報がマスコミから伝わってきたが、奇跡的な回復を成し遂げ、現在では外で遊べるほどになっていると言う。近代医療技術の進歩に感服する。
仮定の話は良くないが、バーバロが故障をしなかったならば、果たして三冠馬になっていたであろうか?ブリーダーズカップや凱旋門賞を制すことが出来たのだろうか?解らない。バーバロが故障したレースを勝ったベルナルディーニは本当に強い馬だ。ノーザンダンサー系が蔓延るヨーロッパでダイナフォーマーの子供だからといって活躍できるという保証は何も無い。ただ一つ言える事は、これらの仮説に対する確証は不可能であるということだ。早く去る者は後世まで語り継がれる。早く去ったものには必要以上の評価が下される。バーバロが順調に回復すれば、やがて種牡馬になるだろう。私は、バーバロの子を日本で走らせて欲しいと思っている。バーバロの血統は、サンデーサイレンスが去った日本に上手く当てはまるのではないか?と考えている。この仮説だけは、そのうち確証できると思う。私はその日を楽しみにしたい。
付け加えるならば、今年、ディープインパクトが、芝でも構わないのでブリーダーズカップに挑戦してくれていればなあ、と思う。今は亡きサンデーサイレンスがケンタッキーダービーを制したチャーチルダウンズで今年は開催だったのに。凱旋門賞のように古馬が不利ということも無かったのに。
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