10/12/2006

流通がアメリカの寿司の味を決定する

魚の話ばかりになるが、アメリカにおいて、あるいは寿司は日本料理と同義語であるのかもしれない。それほど寿司はアメリカに浸透している。以前に討論したが、大阪の寿司を好まない私にとって、アメリカの寿司は結構マシだと思うことが良くある。

日本に住む人から良く不毛な議論をふっかけられる。つまり、アメリカの寿司は実際に美味しいのか、というものである。大概の場合、そのような質問をする人は、日本の寿司が美味しいに決まっており、アメリカで食べる寿司は不味いに決まっているという思い込みを正当化して欲しいという、明確な意図を持っているものだ。このような意図が明から様な場合、喋るのも辟易とするのだが、一応丁寧に答える。「さあ、どうでしょう。自分で食べてみたらどうですか?」、と。

努力して一般論を言うと、アメリカの寿司は千差万別である。美味しい店もあるし、驚くほど不味い店もある。よく、作り手の技術が寿司の味を左右すると言う人がいる。それはあまりにも話を簡略化させ過ぎている。勿論、アメリカには白飯の炊き方すら解っていない無茶苦茶な店も星の数ほど存在する。しかし、そのような一定のレベルに達していないケースについてこの場で論じても仕方ない。私が言及したいのは、まともな寿司屋であれ、アメリカでは寿司の味のばらつきが激しいと言う事である。

寿司の味はネタの魚に左右される。しかし、アメリカに築地は存在しない。寿司シェフが魚市場に行って素材を選ぶことなどほぼ不可能だ。よって、魚の流通経路を確保させている店が、当然の帰結として美味しい寿司を出すことになる。逆に、流通経路を確立させていない店に入ると、かなり残念な結果となってしまう訳だ。

私がシアトルで良く行く「武蔵」という店がある。狭い店内にはアジア人と知的そうな顔をした白人がごった返す。店に入るまでかなり長い時間待たなければならない。この店は10ドル強でなかなかの寿司を出す。かなり大き目の握り寿司で、ネタも大きい。これをどう評価するかは意見の分かれるところだが、私は悪くないと思っている。サーモンは脂が乗って太めに切られていて食べ応えがある。ハマチは脂がしっかりと乗っている上に身が引き締まっており、絶品だ。ただ、私はこの店に小うるさい江戸っ子とは行かないだろう。何故なら、マグロが余りいただけないからだ。私は関西人であり、マグロなど数ある魚の一種に過ぎないと考えているが、マグロ好きを標榜する江戸っ子には耐えられないかもしれない。色はどす黒いし、汁気は抜けているのだ。

一方、アメリカで物凄く美味しいマグロを食べた経験もある。他人の奢りで、ボストンである高級日本料理屋に入った。何でも食べていいと言われたが、勿論、その人に注文してもらうように頼んだ。そして出てきたマグロの寿司だが、中トロと赤身が数個でてきたのだが、これがかなり美味しかったのだ。シェフに話を聞くと、メキシコ湾で獲れたマグロを生のままFedExで送ってもらったという。驚きだ。ただ、マグロ以外の寿司に関しては、余り褒められるものではなかったように記憶している。もしかすると、始めに食べたマグロが美味しかったために舌が馬鹿になったのかも知れない。一体いくら程したのか知りたかったが、それは叶わなかった。

日本には、というよりは築地には、世界中から無数のマグロがやって来る。近年では冷凍マグロの味が落ちると言う一昔前の常識は覆されつつある。なかでも、環境団体に悪名高き、地中海を中心としたマグロファームの冷凍物のホンマグロは悪くない。「外れ」に当たる事が全く無いのだ。それは恐らく、マグロを「上手く」殺して、飛行機ないし冷凍船に乗せるからだろう。

アメリカは主に自国内で捕獲したマグロに供給を頼っている。実際に捕獲しているので、先述のように生のまま独自のルートでレストランに運ぶこともあるだろう。そういったマグロに偶然あったなら、それはラッキーだ。だが、冷凍をするケースも多い。捕獲したマグロを船上で冷凍すると身が焼ける事が多い。そういう意味で、味にばらつきが出てしまうのだ。

私はアメリカのスーパーではマグロを買わない。冷凍輸入物はフィリピンやインドネシア産のCOマグロ(一酸化炭素で処理して変色を防いでいる。日本国内では流通が禁じられている)ばかりだ。更にひどいことに、日本人なら子供でも知っている、冷凍マグロは塩を入れたぬるま湯につけてから戻す、という常識を知らない。パックの中でマグロの塊が赤い汗を吹いているのだ。見ただけで味は解ってしまう。

アメリカではマグロは美味くもあるし、不味くもある。アメリカの寿司は美味くもあるし、不味くもあるのだ。

武蔵(Musashi’s)
1400 N 45th St.
Seattle WA, 98103

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