9/22/2006

究極の「不味い物」

私は食べ歩くのが好きである。多くの食べ歩きを好む人達と同様、私も美味しいと言われている物を試してみて、それについて批評することに喜びを憶えている。「美味しい店を紹介してくれないか?」と尋ねられれば、場所にもよるが、そう困ることはない。私は、「美味しい物」に絶対性はないと考える。食べる人の育った環境、気分、体質、体調などの内生的要因と気候や雰囲気などの外部的要因によって、「美味しい物」は常に移ろうものである。要するに、アネクドートを伴わない「美味しい物」など存在しない。食について騙る時は、常にアネクドートを用意するべきである、と私は信じている。

今回私は、「美味しい物」のアンチテーゼについて考えてみた。つまり、「不味い物」である。これまで、多くの人から、その人が経験した不味い物についての話を聞いてきた。しかし、私は未だに、満足し得る「不味い物」についての話に巡り合えた事はない。人々が騙る「不味い物」にはパターンがあり、大概は以下の3通りの理由とその組み合わせに帰結する。1)辛過ぎる、甘過ぎる、塩気が無いなど、調味料の配分に問題がある。2)硬過ぎる、軟らか過ぎるなど、食感に問題がある。3)チーズなど異国の発酵食品を食べた際に良くあるのだが、慣れていないので味が理解できない。これらの理由のみで騙れるほど、「不味い物」というテーマは浅くは無い筈だ。「不味い物」には、それを作った人の努力が凝縮されているべきであるし、それを作る背景としての文化も見逃してはならない。究極の「不味い物」とは、ただの料理の失敗作ではなく、究極の「美味しい物」の相反に位置するべきなのだ。本当にそんなものがあれば、の話ではあるが。そういう理由から、私は「不味い物」に偶然出くわせば、小躍りさえしたくなるのだ。

納得し得る「不味い物」を久しぶりに食べた。ハワイ、ワイキキビーチのクヒオ通りにある「ぺリーズ・スモーギー」。二昔前まで、ハワイは不味い店で溢れていた。しかし、大陸や日本の資本がハワイにどんどん流れ込むようになってからは、そのような不味い物を出す店が姿を消してしまった。現在、ワイキキビーチに林立するフランチャイズ系の店に入れば、平凡な味のハンバーガーやステーキ、チーズケーキが食べられる訳だ。しかし、「ぺリーズ・スモーギー」は古き良きハワイの味を頑張って残している。この店は食べ放題なのだが、ディナーで10ドル強である。店の前には、ホテルに入っている高いレストランを避けるように、白人の老人達が並んでいる。スパゲッティーは茹で過ぎでぶよぶよ。ミートソースはキャンベルの缶を更に悪くした味。フライドチキンはわざと悪い肉を使っているし、ローストビーフにかけるソースも無い。とうもろこしは茹で過ぎて味がしないし、カレーはカレー粉以外の味がしない。コーヒーはどぶ水のような味だし、レモネードには化学臭が漂っている。何から何まで、パーフェクトに不味い。

うちの店は安いのだから、とことんこだわって不味くするのだ、といった確固たる意気込みすら感じさせられる。特筆するほど「不味い物」を出しているにもかかわらず、店は結構混んでいる。つまり、暫くは古き良きハワイの不味さが地球上から消えて失せてしまうことは無さそうだ。これからも、東京やニューヨークの汚い金に侵されること無く、地元ハワイの良さが残ってくれれば良いと思う。ワイキキに足を伸ばす事があれば、是非「ぺリーズ・スモーギー」に足を運んでください。不味さを楽しめますし、グローバリゼーションの魔の手からハワイを守ることにも些細な貢献をする事になるでしょう。そして、あなたは、ワイキキの海の美しさを改めて愛でる筈です。リゾートでは不味い飯を食うべきなのです。そして、もしかすると、何故マクドナルドすらが、人々にあれ程愛されているのかという、21世紀の飽食の時代に忘れ去られた事実すら思い出すかもしれません。

Perry's Smorgy Restaurant
2380 Kuhio Ave
Honolulu, HI 96815-2965

0 件のコメント: