遅ればせながら、半沢直樹を見た。ストーリー展開が簡単に読めるので、安心して視聴できる良娯楽ドラマだった。言い尽くされている感はあるが、「暴れん坊将軍」や「水戸黄門」などとも通じる勧善懲悪であり、視聴者が嫌がるような悪いサプライズは全くない。「倍返しだ」という決め台詞など「待ってました!」とばかりに使われている。まるで葵の御紋である。悪い奴をキッチリと懲らしめ、めでたし、めでたし、となる訳だ。
その癖、実際の社会と変に近い距離がある。大阪編では、ヒルトンのカフェ、空中庭園、六甲の展望台と、見るだけでわかる場所が映されていて非常に懐かしかった。特に阪急百貨店の佇まいは、改装されたとはいえ個人的に「実家」の様なものなので、遠いアメリカ南部でその姿を画面に拝むと、妙にしんみりとしてしまう。東京編でも三井本館など、馴染みのある場所が色々写っており興味深い。配役も中々でみんなの演技に違和感がない。北大路欣也が頭取であるとか、ちょっと視聴率狙い感が透けて見えすぎる気もするにはするが。
私の周りには「経済通」の人が沢山いるのだが、その人たちの強がりが面白い。結構毎週喜んで視ている癖に、半沢直樹のストーリーは現実的にはあり得ない、と来るのだ。「はあ?」お兄さん、これは漫画ですよ。
現実の銀行業務で半沢の物語などあり得ない事など、多分誰でも解ると思う。不良債権処理が推し進められて以降、大銀行が必死に間接金融にかかわって稼ぐ姿など、考えにくい。損失が個人の責任として露呈する事も、日本ではあり得ない。有耶無耶で損失が出ていました、というのがパターンである。悪い事をする奴らの裏にヤクザが絡んでいない事も有り得ない。西大阪スチールの様な場合は、必ずヤクザが銀行関係者や役人と絡む。西大阪スチールを見ているとイトマンを思い出したが、宇梶剛士のやり方で個人資産を作れるほど現実は甘くない。そういった事を指摘したくなる気持ちも解らないではないが、現実と違うからドラマがつまらないとはならない。
経済通で半沢直樹を批判する側の人達はまるで、水戸黄門や暴れん坊将軍を視て、元副将軍や将軍が市井の人と関わるなど、現実離れしているから面白くない!アイアンマンやスパイダーマンは物理法則に反しているから見る気も起きない!などと言っている幼稚なレベルと変わらないではないか?まあ、一過言したい気持ちも解らないでもない。
ただ、ドラマを視ていて違和感を覚えた事は沢山あった。(これは漫画です!)
ドラマ全般に言えるのだが、実際の社会で声を荒げて人と人が知的に対立する事など、まずあり得ない。半沢の様な態度を取れば、普通は手が先に出る。敵同士で、コミュニケーションがああも上手く行き、勝ち負けが明白になる事などあり得ない。今までの人生の中で、ドラマのようなコミュニケーションが取れる日本人を数えてみると、5人くらいしか思いつかないのだ。それらの人達ですら、楽しい雰囲気の場でのみしかそのようなコミュニケーション能力は発揮できない。日経ビジネスなどの記事で、半沢みたいなサラリーマンを目指す若い人がいるというような話も出ていたが、喧嘩に巻き込まれたくなければ、半沢のようなコミュニケーションを実社会でとってはいけない。あれはドラマである。
一番気になった点は、半沢が悪い奴らを懲らしめるのだが、法律を犯した悪い奴らを刑事告発していない点である。銀行はそれらの違法行為を内部隠蔽し、人事のみで懲罰している。これはコンプライアンス違反である。銀行内部の悪い奴が3000万円を横領紛いで紛失し、その金を銀行が補填する。しかも、悪い奴は「島流し」や「降格」されただけだ。この補填した3000万円は誰の金か?という問題が残る。金は金だ。損失を補填するには、誰かの金を使わなければならない。組織自体は金など持っていない。すべては何らかの個人に寄与するのだ。
さらに西大阪スチールの件に関しても、12億円を差し押さえたとして(何故その個人名義の口座が国側にばれなかったのか不思議で仕方ない)、国税と銀行が折半したとして、他の不渡りを喰らった中小の債権者はどうなるのか?その人たちは家族が無いとでも言うのだろうか?(勿論、これは漫画です。)
まあ、こういう事だが、久しぶりに気持ちの良いドラマを視た。続編を期待する。
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