12/01/2006

雪に埋もれた街とデイアフタートゥモロー

シアトルは西岸海洋性気候に属する。つまりアイディアは、一年を通して常に西から吹いてくる偏西風に気候が影響を受けているということだ。西には海があり、一年を通じて温度の変化が小さい。シアトルには四季が無く、大きく分けて、晴れ渡った夏と、雨が降り続く冬があるのだ。

夏には太陽熱で陸の温度が上がり、温度が低い北の海では上昇気流が発生しにくい。風は晴れた海の方から流れてくるので、雲も無く晴れ渡った晴天が毎日続くことになる。逆に冬場は、凍てつく陸に比べて海の温度の方が高くなり、上昇気流が発生しやすくなり、雲が発生する。その雲が偏西風に乗りシアトルに吹き付けてくるので、シアトルは常に雨が降る訳だ。ただし、シアトルの東部にはオリンピック山脈が聳え、ある程度の雨はオリンピックの東側(太平洋側)で落ちてしまう。その後、空気が山を越えてピュージェット湾の方向に進む際にフェーン現象が起きるため、シアトルでは冬場でも緯度の割には比較的温暖(4~10℃)で、霧雨のように細かい雨が降り続くことになるのだ。シアトルの冬は、毎日曇っており、霧雨が降る。

昔ヨーロッパの小説を読んでいる時に、良く解らない文面に直面した。ロンドンやドイツの街が舞台の小説では、秋になってくると天気が悪くなり、主人公が憂鬱になって来る事がよくある。大阪で育った私には全く意味が解らなかった。何故なら日本の太平洋側では、秋と言えば気温も涼しくなり絶好の行楽日和であるからだ。日本で秋になって気分が滅入る人は、プロザックでも飲まなければいけないほど深刻な人だけだろう。では、何故北ヨーロッパでは皆秋になると鬱になるのか?

その答えはシアトルで出た。シアトルも北ヨーロッパの多くの町と同じ西岸海洋性気候だ。夏が過ぎると、寒い雨季がやってくる。シアトルでは文字通り冬場に太陽は出ない。永遠に小雨が降り続く。夏が終わると人々は鬱になり、エスプレッソ・コーヒーを愛で、インターネットの世界に逃げるようになるのは当然の帰結であろう。シアトルを含むワシントン州が全米一の自殺率を誇るのも、このあたりの話で説明されている。

感謝祭明けの月曜日、大変なことが起こった。昼過ぎから雪が降り始めた。当初は地面に落ちた途端に溶けていたのだが、夕方になり急激に気温が下がり路面が凍結し、さらに激しく雪が降ってきた。直ぐに街はすっかりと雪に埋もれてしまった。私はシーホークスのマンデーフットボールを見ようと楽しみに帰路についたのだが、雪の中を待てど暮らせどバスが来ない。暫くすると、ある人が「この路線は坂道があるので動いてない。他のバス路線なら動いているはずだ。」と言うので、雪が降り積もった中を1キロほど移動する。そこでもバスが中々来ない。結局二時間ほど待ち、漸くバスが来る。いつもなら二十分で着く道を1時間かけて帰る。途中、3件の事故を目撃した。完全にひっくり返っていた車さえあった。夜半前、漸く家に辿り着く。寒かったとは言うものの、厚めの手袋とスキーウェアを着用していたのは不幸中の幸いであった。

I-5(西海岸の主要高速道路。バンクーバーの南からサンディエゴまでを結ぶ)は雪でタイヤを取られた車の駐車場と化していたし、多くのフットボールの観客たちは家まで辿り着くことが出来なかったようだ。シアトルは基本的に雪が降らないため、雪に対しては無防備だ。以前、東海岸の町に住んでいたときは、雪が始まる前には除雪車がスタンバイしており、住民が歩道に凍結防止剤を撒いていた。シアトルにはそのような準備は全く無い。マイナス8度ほどまで気温が下がった。シアトルでは計測を始めて以来の最低気温のレコードだという。

雪の中で長時間待ち、バス停で他の人達と空を愚痴り、ひっくり返った車を見ていると、脳裏に陳作映画、デイアフタートゥモローが浮かび上がってきた。昨今、異常気象がメディアに取り上げられ続ける。ランダムに異常があるのはまさに正常であるのだが、自分が酷い目にあってみると、地球温暖化の影響なども責めたくなってしまうものだ。

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