今回の地震について、中長期的には日本経済にとって良いなどとする論調を良く見る。特に海外の経済番組でそのような発言を多く聞く。その人達は今回の地震を阪神大震災と比べているのである。今回の東北大地震と神戸の地震を比べるのには無理があると思っている。
まず地震そのものの規模であるが、阪神大震災と呼ばれる1996年に起きた地震の被害は至極限定的な物であった。武庫川を越えたあたりから須磨や垂水まで。加えて淡路島の北端。最も大きな被害は兵庫県の南、海沿いを中心に15~20kmの範囲内で起こっていた。豊中などの大阪府北部でも死者が出た為に(兵庫圏外の死者数は36名のみ)、神戸大震災ではなく阪神大震災と呼ばれたわけだ。大阪の町は殆どノーダメージであった訳だし、京都も何の問題もなかった。阪急電車も数日後には梅田から西宮北口駅まで運転が再開したし、JRや阪神も西宮界隈まで運転を再開した。西宮まで電車で行ってしまえば、深刻な被害にあった西宮市や神戸市灘区、中央区や兵庫区には徒歩で行こうと思えば行けるわけである。阪神高速、東海道新幹線、神戸市内の私鉄やJRの復旧には数ヶ月を要したとは言うものの、国道二号線は混んでいるとは言えども、使えたわけである。神戸港は機能不全となったが、大阪や京都から物品が消える事は無かった。阪神高速はだめでも、中国道は問題なく走れたのである。神戸の町がズタズタになったというものの、サプライチェーンはしっかりと維持されていたのだ。神戸の地震では、家屋倒壊や人的被害は大きかったというものの、工場施設や物流、農業やエネルギーといった我々の生活を直接支えるものに対する被害は今考えると限定的であった。それは、地震そのものが起こった場所は悪かったが、規模そのものは比較的小さかったためであろう。そして、どのような形で何を中心として復興させれば良いかの政治判断が比較的簡単に出来た。
神戸市中央区、灘区、芦屋や西宮などは日本有数の裕福な地域であり、住民の懐は深い。それらの地域で被災した多くの人達は、家が多少壊れても自分達でさっさと立て替えた。大阪などを中心に工務店などの業務は全くと言っていい程ダメージを受けていなかったので、再建は比較的早く進んだ。1997年には橋本内閣下で消費税増税が行われる事が解っていたので、3%のうちに家を建て替えようと考えた人も多く1996年の住宅着工数は異様に伸びていた。ただ神戸市長田区などの比較的貧しかった地域は復興も大幅に遅れていた。
一方で、東北大震災の被害地域は尋常でないほど範囲が広い。津波の被害が特に酷かった海岸沿い地域だけでも300kmをゆうに越えている。勿論歩いて行ける距離ではない。東北地方は一言で言えば「田舎」であり、人口が密集している訳ではなく、被災地も散らばっている。そして、仙台以外の小さな漁村の被災地について、復興をするべきかするべきでないか、そしてどこを優先するべきかの判断がつき辛い。しかも、工場などが広く多岐に渡ってダメージを受けており、都心はもちろん、西日本などの関係がないと思われている地域の産業にさえ影響を与え始めている。それどころか、韓国や台湾、アメリカの企業まで製品が日本から輸入されないと困っている事態なのだ。そして、電気と食料の問題。これらが日本全体にボディーブローのように効いて来る。
勤務していた工場が津波で壊滅したり、漁をしていた人の船が壊れたり、或いは津波や放射能の影響で農業が出来なくなっているなどの理由で、現金収入がほぼ立たれたと考えられる人達が大勢いる。その人達が神戸の時のように自力で復興できるのだろうか?震災の後、政府は何かと大盤振る舞いを始めている。なんでも政府が保証すると言っている。津波で壊滅した街も、放射能で農業製品を出荷できない人達も、かなりの長期戦を覚悟しなければならない。政府は本当に保証できるのだろうか?
どさくさに紛れて消費税をあげようとする動きがある。私はある意味仕方ないと思うのだが、これは経済を殺すだろう。橋本政権下で3%から5%に消費税を上げると、日本経済が風邪をひいただけでなく、香港、タイ、マレーシアや韓国は死にそうになった。最後にはロシアにまで飛び火する事態となった。あの頃に比べれば、日本の地位そのものが低下しているので、今回の事態は日本経済をずぶずぶと下向かせるだけになるかも知れない。
嫌なことばかり書いているので、すこしばかりジョークも書く。東京の電力不足のおかげで一つだけ日本の社会的な問題が解決することになった。停電の中何もやる事が無くなった首都圏では2012年にベビーブームを迎えることになり、日本の人口減少に歯止めがかかったのである!
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