地震、津波、原発のニュースをNHKで見ているのだが、他のことが手につかない。さらにアメリカでは、ナショナルとローカルにかかわらず津波と原発のニュースがトップ扱いになっており、英語での放送なのだが、映像を見ていて日本にいるのではないかという錯覚を覚えてしまう。多くの人が悲劇が好きなだけと言う事は良く理解しているつもりだが、日本の惨状が報道されているというのは非常に有り難い事である。私は社会科学を本職としているので、メガネを曇らせる虞がある「お涙頂戴の話題」はなるべく避けているのだが、被災者の報道には心を砕かれる。若かりし頃、神戸で自分の目で見た事と比べても、明らかに規模が違う。地震とそれに伴う津波で不幸にも命を落とされた方達にはご冥福を心から申し上げる。
しかしながら、いつまでもヒューマニタリアンの話をしていても仕方がない。不謹慎と言われるかも知れないが、これは三陸沖で起きた地震であり、比較的人口が薄い地域が被災したものであり、その地震が日本を殺す必要はない。原発の問題など、信じられないような事態も起きている。しかし心臓が機能不全になると、私達は傷口に血液を送れなくなる。人命が第一。そのステージは恐らく終わった。被災者の秩序だった行動に助けられた事は否定のしようがないが、政府の人命救助の対応にはAプラスをあげられると思う。食料や水、燃料が被災地に行き届くか?日本には食料も水も十分にあるので、ロジスティックの問題が解決されれば心配する必要がないだろう。被災地があまりにも広大である為に、実際問題として解決には時間がかかると思う。自衛隊にイニシアティブを取らせてロジスティックを一元化している事も評価できる。
地震の直接の被害は16-25兆円ということであり、これはすぐに復興できる。今回は原発に端を発する三次災害の問題を語りたい。既に多くの専門家が指摘されているように、チェルノブイリのような事態になる事は恐らく無いだろう(この時点においても、今後絶対に安全であるとは保証できないが)。ただ原発問題から派生した災害は長期で日本経済を苦しめると思う。私の結論を言うと、原発に端を発する社会問題は金銭的にもかなり深刻であり、東京の国際競争力を大きく落とすことになろうと推測する。
まず原発自身の問題については、冷却をすれば良いと言う事である。という事は、今後も冷却する必要があるという事だ。燃料が暖かいうちは処理も出来ないので、今後もこの状態で冷やし続けることになる。言い換えると、燃料がある程度冷えて処理できる状態になるまで、このままの状態を続けざるを得ないと言うことだ。微妙に放射能が放出され続け、そこに被曝覚悟で誰かが冷却作業をする。放射能度が高いので、今後も建物を作るなどの作業は簡単には出来ない。どのくらいの期間で燃料は冷えるのか?恐らく今後3-5年はかかるだろう。その間、原発から20km以内は立ち入り禁止が続くであろうし、誰も帰ってこないだろう。2014年から2016年の頃まで、この問題はだらだらと続くのである。その間、土壌汚染、空気汚染、そして水の汚染など、放射能問題はだらだらと長引くことになりそうだ。
次に農業や漁業に及ぼす被害である。土壌や海水が汚染されているので、今後数年間は北関東から福島県、宮城県といった場所を産地とする農産物や漁獲物は買い手がつかない。それでなくても水田が津波による塩害で今年は無理という状態であるが、さらに輪をかけて状況は悪くなる。洗えば大丈夫だと科学者は言うだろう。しっかりと洗いさえすれば放射性物質は流れ落ちるので、農作物が放射性物質を吸収していなければ大丈夫という寸法である。しかし、私は安全だと解っていても食べたくない。科学者にはこう問いたい。何故有機野菜が売れ、そういったマーケットが存在するか、という事を。人間の消費行動などは、理性で行っているのではなく、所詮はパーセプションなのである。いずれにせよ、日本の食糧供給は危機的状態を迎える。食料のかなりの量を輸入に頼ることになる。今年の秋くらいには、再びタイ米とのブレンドライスを食べなければならないような事態すらあり得るのでは無いだろうか。東電は資金が底をついて公営化されるであろうから、福島を中心とした農家や漁師に保証を始めれば、それはつまり税金を使うという事になる。一体いくらかかるのだろうか?
一番深刻なのは電力供給であろう。何機もの原発が停まっているし、火力発電所の多くもやられている。3月は比較的電力需要が低い月ではあるが、東京を中心に、現時点でもかなり需給が逼迫している。7月から8月と電力需要は冷房の使用と共に上昇していくのだが、東京地域では恐ろしいほどの電力不足が発生するだろう。政府や閣僚も馬鹿では無いだろうと信じているので(頼みます!)、今後は色々な政策が出てくることと思う。東電主導で実施している不公平輪番停電は緊急策であり、すぐにマシな政策が出てくるに違いない(頼みます!)。サマータイムの実施、電気料金を上げて需要を抑制、土日の廃止による需要の平滑化、長期間の強制夏休みなど、考えられる事はあると思う。しかし、電力のうちの半分以上は産業用、特に製造業用であるのだ。つまり、関東に工場を持っている会社は終わり、という事になる。電力を食う、製鉄、金属、製紙パルプ、化学、材料。これらの製造業は関東では製造がおぼつかなくなる。夜間や土日に仕事をするなどしたとしても、電力が復活しない限り、かなりのダメージを受けるだろう。それらの産業がダメージを受ければ、サプライチェーンがダメージを受け、コーポレートジャパンはガタガタになる。どのくらいGDPが下がるのかは怖くて予想もしたくない。鉄道が混乱しているため、交通網全てが混乱し、首都圏のロジスティックにも影響が出ている。東京港や横浜港は機能不全に陥っている。そして、この状態は少なく見積もっても、秋口までは続くだろう。前々から言われていた東京一極集中リスクの脆弱性が露呈した格好となったのだ。私が企業の社長であれば、顕在化した東京リスクを認識して、会社機能の一部を大阪に移すと思う。製造拠点は、この際海外に移すことを真剣に考える(ただ、日本に残れば助成金がもらえる可能性があるので、それはしっかりと取りに行く)。もし、外資系の企業であれば、東京本社機能縮小、そしてSGかHKに機能をどんどん移す。電機の通っていない東京の世界競争力はいまや大阪以下なのである。政府がしなければいけないのは、東京圏の電力料金の値上げである。そして、西日本の電気代は据え置く。そうすれば、大阪、名古屋や福岡に出て行く企業の後押しも出来るし、首都圏の電気需要減にも貢献できる。
野球は電力使用ピーク時を外して夜の九時半から始めればいいだけの話だし、電力を抑える為に夜間などに営業している店を閉じる必要は無い。西日本で電気を消す必要もない。問題の本質は、最大アウトプットが制限されていることなので、そんな無駄な節電をしても何の足しにもならない。寧ろ非理論的な萎縮モードはGDPを押し下げるのでさせるべきではないのだ。要はピーク時を避けて、時間や曜日あたりの電力使用量を平滑化させるように努めなくてはならないのだ。ただ、残念なニュースは、社会主義民主党のリーダーシップで思い切った政策は出ず、東京がじりじりと貧乏になり、大阪や福岡の景気は萎縮モードで伸びず、日本全体が沈滞してしまうといったシナリオが一番起こりうるのだろうが。
最後に水。日本は地表水を飲んでいる。空気中の放射能濃度が上がれば、勿論水も汚染される。何度も言うが、科学的には問題は無い。最悪フィルターを通せば多くの放射線が落ちるのだろうか。ただあなたならどう思うか?沸かせばいいのか?フィルターを通して飲むのか?歯は磨けるのか?シャワーは浴びても問題はないのか?私は放射線学の授業を取ったこともあり、科学的な見地からこの程度では問題は無いと解っている(ただ、放射能については実証実験がきちんと行われていないし、不明な点が多すぎるし、放射性物質によって解答は変わってくる)。しかし今思う事は、東京にいなくて良かった。そういう事である(福島の回りに住んでいる方たち、申し訳ない)。
日本国が今後2-3年に経験する事は見えてきた。東京が極端に衰え、ハブ機能すら失う。慢性的な食糧不足により、外国からの輸入が増える。鉄、紙、金属、燃料などの輸入も増える。翻って、製造業は不振を極め、輸出量が減る。日本は貿易赤字国に転落する。東北を中心とした土建屋などが儲かるだろうが(ただ津波で流された街は残念だろうが無駄なので復活させないで欲しい)、首都圏の金融や知的産業は外国に逃げる。復興という名の下に、支出が緩む可能性もある。地震の直後にゴキブリさん達の活躍により円高に振れたが、中期的に日本には何の希望も無い。マーケットは地震明けに記録したロスを取り戻して小康状態になっているが、今後は徐々に深刻さがばれてくると思う。明るいニュースは、大阪が少しばかり元気を取り戻すことくらいだろうか?
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