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回顧主義と昭和の味

6月の初め、ある一軒の日本食レストランが静かに暖簾を下ろした。そのレストランの名は「たこ八」。セーフコフィールドや宇和島屋に近いインターナショナルディストリクトにあった。私にとって、たこ八はシアトルで最も愛していたレストランの一つであったので、非常に悲しかった。悲しいにも増して、たこ八がなくなるという事実に、虚無感を痛烈に感じてしまった。確かに時間は移ろうものであるし、捉えることは出来ないものだ。大好きだった店は時間の波の中に消えてしまった。そして、僕たちは汗水垂らして未来へと走り続けている。しかし、その未来に「たこ八」は決して存在しない。 アメリカで、日本食レストランといえば寿司屋と同意語になっているのが実情だが、たこ八は日本で俗に言う「洋食」を中心としたメニューを組んでいる。ハンバーグや鳥の唐揚げ、コロッケ、エビフライなどが主な料理としてメニューに名を連ねる。しかし、さば塩、鍋物、いなり寿司といった純日本的な料理も多くある。平たく言ってしまえば、定食屋なのだ。 お店は30人強が座れる広さだ。ご主人と奥さん、娘さんが切り盛りしている。ご主人と奥さんは見た目は物凄く若いのだが、すでに70才代であったという。特に奥さんは、元モデルをしていたという事もあってか、本当の年齢よりは20歳くらい若く見える。本人たちはまだまだやりたい所だったのだろうが、周りが心配して、店を畳む事になったという。世の中はそういう物だ。実際に事を行っている人はただひたすら何かに向かって走り続ける。そして、何もやってない周りの外野はとやかく口を挟む。 私はいつも決まって「トリプル」と呼ばれるセットを注文する。鳥の唐揚げとコロッケ、さらにハンバーグがついている。揚げ物は程よく揚がっているし、素材のジューシーさをきっちりと残している。ドミグラスソースは非常に上品な味を出している。御飯は焼き飯かカレーのうちから選択できる。焼き飯はベーコンとキャベツ、人参を炒めたお袋の味だし、カレーも昔懐かしい味だ。さらに、サラダがついてるのだが、キャベツの千切りに大きなハムが乗ってボリュームたっぷりだ。日本ではありふれたメニューかもしれないが、アメリカでは中々探せないメニューである。しかも味も格別だ。ご主人の気合いの入れようがはっきりと舌に伝わってくる。 私はたこ八に行くと、子供の頃、阪急百貨店の大食堂にお祖父さんと良く...